2026年05月31日(日)

コラム・エッセイ

第三話 支援の在り方

福祉のチカラ ~幸せのありかた~

 現在、能登半島地震に被災されご苦労されている皆様に心よりのお見舞いを申し上げます。ご不安だろうと私も心を痛めております。が、社会福祉士としてできることはないかと、こちらのコラムを使って引き続き考え、ご提案していきたく思います。

 まずは前回のお話から引き続いて阪神淡路大震災の発災後2週間のろうあのご夫婦の様子をお伝えします。

 訪ねたアパートではタンスが壊れ、食器が割れ、電気は消えたまま。発災のその時、何が起きたのか、夫婦二人の怯えた様子ととめどなく溢れる手話から、手話の読み取りがそこまで得意でなかった私でもありありと理解できました。夫婦にとって私たちが、発災後初めて自分たちの言語である手話で話せる支援者だったからです。

 2週間もの間、どれほど不安だったでしょう。避難所へ食事などをもらいに行っても、手話で語りあえる人がいなかったのですから。夫婦の話から近くに別のろうあ者がいることもわかりました。行ってみると、倒壊した家の前には花束が…。しばらくすると男性が現れ、手話で「私の家に何か御用ですか?」。その家の住人でした。生きていた!と喜んだのもつかの間、お母様が亡くなられたとのこと。共に悲しみました。私たちは困ったときの相談窓口等の情報を提供し、いつでも頼ってほしいと言い含めてその場を離れました。

 1か月後再び神戸へ行くと、相談にこられていたことが書類で確認でき少し安堵しました。

 人間の欲求を整理した「マズローの五段階の欲求」という理論があります。人間の欲求は「生理的欲求」、「安全の欲求」、「所属の欲求」、「承認の欲求」、「自己実現の欲求」の5段階に分けることができ、それぞれの欲求が積み重なって一つのピラミッドを作ります。一番低い「生理的欲求」から一つずつ欲求を満たしていくことで、最終的に「自己実現」に向かっていくという理論です。

 震災直後は家も倒壊し、電気もない、水道も出ない、暖をとることもできない、つまり「生理的欲求」が満たされていません。まずはここを満たすことが大切で、満たされたからこそ、次の「安全の欲求」へと進めます。「安全の欲求」の筆頭にくるのが地震に耐えうる家に住みたいことでしょう。

 能登半島地震の被災者の方々はまさに今、「生理的欲求」と「安全の欲求」の境目におられます。皆様が安心して欲求を満たすプロセスを進めるように、私たち社会福祉士も最大限に尽力したいと考えています。

社会福祉士 公認心理師 服部たかひろ

挿し絵は昨年12月に描いたものです。  絵:杉川茂

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