コラム「一言進言」
藤原正彦さんが訴える政治とカネ
~子どもに説明できない政治家は国への反逆者~
■ 文藝春秋7月号の巻頭随筆に作家であり数学者の藤原正彦さんが、鋭い随筆を書いている。藤原さんは「国家の品格」で大ベストセラー作家として認められた人だ。かなり懐古主義的な保守の論客だが、私も「国家の品格」はかなり気に入って繰り返し読んだ。基本的な論としては「論理より情緒」「英語より国語」「民主主義より武士道」を書いている。
■ 彼は、「政治とカネ」すなわち金権政治は自民党の宿痾(しゅくあ)である、と冒頭から断言する。金権政治の温床は団体や企業の献金そのものにあるとして、1993年のゼネコン汚職をあげ、当時の経団連会長の平岩外四会長は、それまで経団連が行ってきた各企業への献金割り当てを廃止した。
■ ところが2004年小泉内閣になり、小泉首相と気心の通じた奥田碩経団連会長が献金を再開した。「民主主義を維持するにはコストがかかる。企業がそれを援助するのは社会貢献だ。カネを出すが口も出す」とも言った。
■ よくぞこれほどまで傲慢なことを公言できたものだと、藤原さんは憤怒する。かくも恥ずべき言明が20年も大手を振って歩いてきたのは、自民党と経団連ばかりか、メディアそして国民までがアメリカ型金銭至上主義に染まったと嘆く。そのため奥田会長時代の法人税は30%から23.2%まで下がり、消費税は5%から10%へと上がり続けた。そして政治献金とは、献金できる強者を喜ばせ、できない弱者を泣かす不公正なものと訴える。
■ 藤原さんはアメリカに頼らない政治をと訴える保守本流の思想を持つ保守派だが、2.26事件で立ち上がった青年将校の気概のようなものを感じるのは言い過ぎか。最後に彼は、献金廃止だけでは政治腐敗はなくならない。道徳において欧米の模倣から脱却し、誠実、正直、惻隠、卑怯を憎む心、羞恥、もののあわれなどを幼いうちから徹底的に叩きこむことしかない、とあきらめた。
■ 今回の裏金問題で政治家たちの本質が完全に明るみになった。政策活動費も献金もみんな残り、政策活動費の領収書の公開は10年後という刑事事件で時効になる時だと言うから驚いた。そこには誠実も正直も卑怯を憎む心も、羞恥も何も感じない。一体自民党や公明党、そして日本維新の会の政治家たちは、子どもたちに今回の納め方をどう説明するのだろうか。
■ 道徳の時間に子どもたちに話もできない政治家たちが国を治めているのは、国への反逆行為だ。
(中島 進)
