コラム・エッセイ
No.75 年に1度のぜい沢三昧
美人薄命 走れ!おばさん 中村光子8月11日(山の日)年に1度の豪華昼食会の日だ。それも地元ではなく、長門湯本温泉の高級ホテルのダイニングホールでの食事会である。娘とその友人が毎年連れて行ってくれる。今年は全席満席であった。我々のテーブル席は決まっている。目の前で調理される料理を、つぶさに見ながらの食事は、お金持ち気分で美味(おい)しさが倍増だ。
2階か3階か定かではないが、料理人の背後の窓には大樹がそびえ、夏の風にゆっくり揺れている。担当シェフは女性だった。目の前で繰り広げられる調理パフォーマンスに固唾を飲んだ。
まず、鉄板にハート型のステーキ牛を並べ調味料を振りかけ、軽く焼き、隅に置く。目の前の鮑が、今、起きた風に殻を押し上げ大欠伸をした。シェフはその鮑を素早くつかみ、調理すると、大きな鍋ぶたをかぶせた。
おもむろにハート型の肉が鉄板に戻される。姑息な私は、どのハート型のステーキが誰の皿に行くかと目で追う。
シェフは、肉も鮑もひと口で食べられるよう切り揃えて、それぞれの皿に盛りつけると料理場を離れた。シェフは料理場奥の片隅に待機し、お客の食事の進み具合を確かめ、料理場に戻ってくる。そのタイミングが、また、絶妙である。
私たちは次から次へと出てくる料理を、青空を仰ぎながら、大樹のゆらぎに見守られながらいただく。
女性シェフという気安さから、料理の調理法や道具がない場合は、どうしたらよいか、などなどの私の愚問にもかかわらず、親切に答えられるのであった。
娘の友人の車で来たので、娘と私はせっかくの御馳走だからと、ワインを所望した。気づけば時計が見当たらない。その心遣いが憎い。
最後のウインナーコーヒーに目を細めていたら「お会計はどのように致しましょうか」と、問われたので、私はおもむろに言った。
「一番、お金持ち風にみえるひとに、お願いします」
そしたら、そしたら勘定書が、私の前に置かれたではないか!お金持ちに見えるんだ私。もちろん、割り勘です。
その日は、湯本温泉祭りであった。昼間から、屋台用の出店が軒を並べていた。
言い忘れるところだった。昼食にはサービスの入浴券がついていた。大喜びの私たちは、泡風呂、サウナ風呂、ジャグジー風呂、冷水泉などに脂体…あっ、それは私だけ…です。ひと皮もふた皮もむけて、更に美人になった。
来年もと約束したが、美人薄命の私…さて。