コラム・エッセイ
「宝の持ち腐れ」
おじさんも頑張る!~山の話あれこれ~ 吉安輝修山歩きをする人にとって山道具というのは単なる道具ではない。特に雪山歩きや高山の長期縦走となると大袈裟でなく“命”に関わることもあり、値段や恰好、色で妥協できない。最近はインターネットの情報などで選ぶ人も多いようだが、メーカーのサイトは少々手前みそ的に誇張されているし、SNSでの個人の感想や口コミも武勇伝的だったり、本来の目的や条件下ではない使い方をしての感想もあり信用できない。
やはり実際に自分が山での体験から必要な機能、性能を試行錯誤して選ぶのが一番だ。それに若いころは我慢や根性でやり過ごせたことが、悲しいかな体がついてこなくなったこともあり、他人の意見、特に若い人の感想はそのまま自分に当てはまらない。
手袋一つとってもマイナス20度以下の烈風下で満足できる物に出会うまで何種類も試し、気が付けば両手近くになる。そのほかにも登山靴やザック、寝袋、テント、コンロ、ピッケル等々随分と揃えてきた。どれも“命”を託すもので全て自分が管理し、他人はともかく家人にも触らせない大事な「宝物」だ。
今年の正月に突然右膝の激痛で普通に歩けなくなった。整形外科では末期症状と告げられ、山歩きやランニングを諦めざるを得ない事態となった。6月に超軽量化して途中リタイア覚悟で恐る恐る大山に足を向け、何とか山頂には立てたが、30キロ近いザックを背負っての冬山はもう無理だと覚悟した。
そんな話を所属する山岳会、米子登攀俱楽部の会長にしたところ、最近若い会員も増えたので冬用の道具を譲ってもらえないかということになった。随分迷ったが、もう使える体ではない以上「宝の持ち腐れ」になるよりはいいか…。
いずれ近い将来処分するにしてもゴミと一緒くたにして出すのもつらい。オークションサイトなどで売ればいくらかにはなるというのも聞いたが、縁もゆかりもない人に値踏みされるのも面白くないし、そもそも面倒だ。
つい先日、冬季の長期山行用の大型ザック、アイゼン、シャベルといった雪山用の品々を大きな箱に詰め込んで発送した。どの品も手に取れば次々と思い出がよみがえり都度荷造り作業が止まった。中身は空っぽでぺっちゃんこのザックを背負って揺さぶってみる。
入山初日の荷物満載時は気合と掛け声でよろけながら背負ったこと。下山時は食料や燃料などが減った分軽くはなっているが、明日からまた現実の世界が待っているのか…という虚無感に肩にかかる荷は軽くはなかったことを思い出す。
でもこれで山との縁が完全に切れるわけではない。新たに山歩きを始める若者にとって冬山用の道具を一通り揃えるのは決して安くはない。年寄りのお古で最近の流行りや好みの形ではないかもしれないが、しばらくは十分に使えるはずだ。
そのうちに自分流を見つけて足していけばいい。こうして若い世代につながっていくことがうれしくもあり、山道具達にとっても本望に違いない。
山行前夜:必要な物を確認し、ザックに詰め込む順番も考える
入山初日の荷物は重くて苦しい…
風は穏やかだが気温はマイナス20度以下
