コラム・エッセイ
(56)エンジェルストランペット(ブルグマンシア)
続々周南新百景 / 再 周南新百景 佐森芳夫(画家)花の名前は、英名のangel's trumpetからエンジェルストランペットと呼ばれているが、学名はブルグマンシアである。意外にも地味な学名を、何度読んでも覚えることができないでいる。
キダチチョウセンアサガオなど別名が多くある中でも、やはりラッパ状に長く伸びた花の姿かたちから、エンジェルストランペットという名前が個人的には一番ふさわしいと思う。
その理由を探ってみると、かってイタリアローマのヴァチカン市国で見たシスティーナ礼拝堂の壁面に描かれたミケランジェロの「最後の審判」の強烈な印象にたどり着いた。
最後の審判は、復活したキリストが蘇った死者を生前の行いによって天国と地獄とに裁いている場面の絵である。約14メートル × 12メートルという巨大なフレスコ画は、圧倒的な存在感を放っている。
その中に、一般に知られている羽根の生えた少女とは違ったミケランジェロの描く成人男性の天使が、下界に向ってラッパを吹いている部分がある。まさにこれが下向きに咲く花の姿と重なり合う。
当時、ヴァチカン美術館で購入した「ミケランジェロとラファエロ」の色あせた画集でも、ミケランジェロの作品群に接した時の感動とともに天使がラッパを吹く姿を再確認することができた。
海外旅行が困難な現在では、システィーナ礼拝堂の最後の審判を直接目にすることはできないが、徳島の大塚国際美術館には原寸大の複製画が展示されているので鑑賞することが可能である。
エンジェルストランペットの花言葉のなかに、「愛敬」のほか「偽りの魅力」が含まれている。これは愛らしい名前や容姿に反して、植物全体に毒性があるためと思われる。