2026年08月05日(水)

コラム・エッセイ

No.122 老境1…忘れられてしまいそうな言葉を思い返してみる 忘れられてしまいそうな歌を歌い返している 昭和ははるかになる

独善・独言

 77歳になった。「老境」である。老境とはどんな状況なのかと《広辞苑》をひもといた…否、ネットで調べた。広辞苑を最後に開いたのはいつか。本棚のどこかにはあるはずであるが…。以下、私の言葉の老境ロマンである。

 ㊀歌好きな私が歌えなくなったと嘆くA表《船頭》《夜汽車》《たばこやのおばあさん》…これらは今では絶滅状態にある。同様《蠅たたき》《赤チン》《蓄音機》《ルンペン》などと聞くと様々懐かしい場面がよぎらないか。
 
 ㊁伝統競技由来の言葉⇒弓道《矢継ぎ早や》、相撲《揚げ足をとる》、剣道《鎬をけずる》、柔道《活を入れる》、将棋《高飛車》、囲碁《死活問題》、農事から生まれた⇒《水掛け論》《たわけ》《馬脚をあらわす》、和装由来の⇒《辻褄が合わない》《胸襟をひらく》《襟を正す》などは語源、由来を超越してナゼか生き残っている。
 
 ㊂《ラブレター》とか《文通》とか㋥や㋭の60年前の歌詞に示された切ないロマンを、同じ年頃になった孫に語るすべはない。《三尺さがって師の影を踏まず》とか《女三界に家なし》、さらに㋬の《窓が開く汽車》とかも説明する気にもなれない。
  
 ㊃意識しないで使っているが不思議な言葉⇒《太鼓判》《めくじら》《おはこ》《ねんごろ》《ひもじい》《さっぱり》《めりはり》…語源を調べてはみるが、判ったようでそんなものかと忘れてしまう。忘れやすいと自省すすることさえ昨今しなくなった。

 ㊄多用してはいるが書けない漢字。《矜持》や《忖度》は書けと言われれば書けたかもしれない。《誤嚥》は私の身近な悩みであるが通常筆記は「ゴエン」である。《憔悴》《躊躇》《逡巡》《齟齬》などの心理表現熟語が、いずれもマイナーな言葉ばかりなのはナゼなのだろうか。

 ㊅山口弁である。岡山生まれの妻は《はぶてる》《やねこい》《かばち》《じら》などを使いこなす。《しろしい》を妻に教えたの誰なのかと恨めしく思うが《おおくじをくる》をまだ知らないらしいことに救われている。ただ、これらにあてはめる漢字はなにか、語源はなにかと考えだすと……やはりやめておく。

 方言に関して昔話しをひとつ…動くを《いごく》と発声して憚らない大顔の部下に「パソコンでイゴクと打っても動くに変換できるのかい」と茶々をいれたが「好きにさせてほしい」と聞く耳を持たなかった。

 ㊆本来とは違った意味で使われていると指摘される言葉がある。ネットで探すと《うがった見方》や《浮足立つ》《敷居が高い》《役不足》《破天荒》などが並んでいる。そのすべてを誤用してきた私は憮然とする思いになるが、まあ、フツーに通用すれば御の字だと開き直る。なお、《憮然》とはムッとすることかと思ったら、失望してぼんやりする様子が本来の意味とある。また、《御の字》とは正しくは「これ以上ないほど満足で極上の状態である」ことという…どちらでもよくなる。

 ㊇これからなくなる言葉。歌で示した㋣の《公衆電話》や㋠の《タバコ》の寿命はいつまでか。『これから淋しい秋です時折手紙を書きます 涙で文字がにじんでいたならわかってください』…涙で文字がにじむ《便箋》が歌にできる時代はいつまでと思われるか。

 以上、失った言葉もあれば、語源や由来を超越した言葉もある。戦後80年、革命的な価値の変化に思いを寄せていると…老境ロマンが胸に迫ってくる。

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