コラム・エッセイ
傲慢商売
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子今や小学生でもスマホを持っているのが普通になったこの時勢の流れにも頑なにガラケーを手放さなかった我がつれ合いも、到頭時代の波に呑み込まれるときが来た。長年愛用のガラケーに別れを告げ、スマホデビューする覚悟を固めたようだ。
メールと、時折の電話しか使うことはなく、後はパソコンに任せて何の不自由もない、切り替える必要がどこにあると、あれもこれも、ラインも出来て便利だよという周囲の声に一切耳を貸さなかったのだが、携帯電話会社から届いた一通のお知らせが、頑なな心に引導を渡した。
「2つ折り携帯をご使用の方へ」というそのお知らせは、今後ガラケーの修理は受けられません。使用不能・データ消滅の憂き目を見る前にスマホに切り替えなさい、というもので、数年前から始まった「ガラケーの運用サービスは202×年まで」という脅迫状に続く、とどめの通告文だ。
商売というのは、お客の求める商品を売り、買ってくれたお客を大切にするのが本道で、これしか売らないいやなら切り捨てというのは道に外れているのではないかと憤慨しながらも、巨像に刃向かう蟻にも似て、抗う術を持たぬ悲しさ、とうとう切り替えを決断したのだが、圧倒的に強い立場にある売り手の傲慢な商売には、こんなものもあったと、憤慨と共に古い記憶を甦らせて、つれ合いは語る。
業界No.1のシェアを誇るメーカーのプリンターを長年愛用していたある日、突然エラー表示が出て使用できなくなった。廃インクの貯槽が一杯になって、取り替えなければならない。そのためにはメーカーに本体を送って有料で交換が必要とのことに怒り心頭。廃インクが貯槽に溜まり、長く使っていれば一杯になるのは当たり前。そうなったら自分で交換出来るように作っておくべきだ。それを異常(エラー)とし、交換にはこちらまで持って来い、有料で治してやるとは何事だと、メーカー宛に抗議文を送ったそうだ。
しばらくして製造部門の責任者から返事が来た。謝罪の言葉は一切なく、貯槽が一杯になるまで使うユーザーがいるとは想定していなかったという内容だったそうだ。そんなに高くないのだから、それだけ長期間使用したら十分でしょう、交換修理するより、買い換えたらどうですかと言わんばかりの内容に、そのメーカーの技術力を高く評価していた思いが一挙に失せてしまったという。
グローバル化の名の下に世界中で進む巨大企業の市場独占で、同じようなことが繰り返されることだろう。その時どんな反撃を用意しておくか、コロナ自粛の間にしっかりと考えておくぞと息巻くつれ合いに、蟷螂の斧を感じながらも、若干同調の思いもする。
(カナダ友好協会代表)
