コラム・エッセイ
新型肺炎・情報隠蔽
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子中国・武漢市を中心に発生した新型コロナウィルスによる肺炎が、次第に日本も含めた周辺国にも広がりを見せ始め、かつてのSARS、MARSと同様に、免疫が働かず治療方法も分らず、発症すれば死を待つばかりになるかも知れないと恐れられている。
発生が報告された当初は、患者は中国の武漢市辺りに限られ、患者数も少ないままで広がりはないと言われていたが、そんなことはあるまいと誰もが感じていた通り、患者数も死者も見る見るうちに増加し、発生地域も中国各地から周辺国に拡大して、日本国内でも発症が始まった。この稿が掲載される頃にはどうなっているか分らないが、1日も早く事態が終えんすること、せめて有効な予防・治療方法が確立することを祈るばかりだ。
この事態について多くの関心を集めているのは、得体の知れない病気に対する恐怖と同時に、政治的な意図が働いて、実際は危険な状態が拡大しつつあるのに「何でもない、心配ない」と言い続けて、情報を公開せず隠蔽していたのではないかという疑惑だ。
危険が公開されることで生じる経済的・社会的・政治的な損害や混乱を押さえようと様々な情報を隠蔽しても隠し通せるものではなく、結果的には被害を拡大・長期化させてしまうのは様々な例で明らかなことだから、この度の事態発生当事国の初期対応の拙さを非難する声があちこちから聞こえている。
新型肺炎を報ずる日本国内の様々な報道番組でも発生国の対応を非難する言葉が発せられる場面が何度も見られた。被害拡大に晒された周辺地域・周辺国が当事国の初期対応の拙さを非難するのは当然で、仕方がない事だと思う。しかし日本がそれを誰憚らず大声で言うのは少し気が引けるのではないか。
9年前、あの東日本大震災に襲われた日本で何が起こったか。原子力発電所の冷却水ポンプ停止で引き起こされた原子炉の炉心溶融を、隠しきれなくなるまで徹底的に否定し隠蔽した企業と政府。放射能汚染拡大予測データを隠蔽して、関連地域市民の被曝危険を高めた行政機関。「汚染水は完全に制御下にある」と大見得を切ってオリンピック誘致のプレゼンテーションに臨んだ首相。
新型肺炎発生当事国の対応には非難される点も理由も十分にあるが、日本から発すべきは情報隠蔽への反省と、その愚かさの認識を共有し警告する呼びかけだと思う。隠蔽の結果は、その後どのように真実を伝えても信じてもらえないことになる。日常生活であれ、政治活動であれ、社会生活を営む上で不信は最大の障害であることを、この事態を機に、改めて胸に刻みたいと思う。
(カナダ友好協会代表)
