2026年09月29日(火)

コラム・エッセイ

どさくさ紛れに

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 どこまで拡大するのか、終着点の予想もつかないままに拡大し続ける新型コロナウイルス肺炎。発生当初は患者の数も限られ、特定の場所に限られた特異なものだということで、恐怖よりも興味をもって関心を集めていたところもあったが、大方の予想通り患者数も死者も発生範囲も爆発的に拡大し、最早興味の対象となる隣国の出来事でなく、恐怖を持って推移を見守る身辺の出来事となっている。

 その間にも発生国からの訪問者はなぜか制限なく続き、先月末からは発生源とされ封鎖状態にある現地から、政府チャーター機による日本人の帰国が始まった。その時、帰国後のウイルス検査を拒否して帰宅した人がいたことが報じられたが、これがとんでもない議論に繋がった。

 常識的な感覚だと、最も感染の危険のある地域から避難してきたのだから、自覚症状がなくても病原体保有有無の検査を受けるのは当然と思うが、拒否が許されるのは検査が法で強制されたものではないからだそうだ。そしてこのことを受けてにわかに生じてきたのが、こうした時には個人の権利を制限して措置を強制できるよう、憲法に非常事態条項を加える憲法改定を行うべきだという主張だ。そしてその発言の主は与党と、常日頃から政権に取り入ってあわよくば与党に名を連ね政権の余得に与りたいという思いが見え見えの動きが目立つ政党の所属議員で、これぞ千載一遇のチャンスとばかりに憲法改定の主張を繰り広げている。そして最高権力者も素早くこれに反応して、憲法改定の議論活発化を改めて呼びかけた。

 この人達の脳細胞はどんな動きをしているのだろうか。検査に応じない人に検査を強制することは現行憲法の下での法運用で十分に可能だと、関係業務の第一線に関わる有識者が断言する中でこのような発言が権力者及びその周辺から頻発されるのを聞くと、これらの人は全国民の安全が損なわれる危機に瀕している緊急事態をも、自分がしたいこと(憲法改定)をするために利用することしか考えていないことが明らかで、その思考回路の幼稚さに呆れると同時に、こうした人達に国政を委ねていることの恐ろしさは新型ウィルス肺炎も及ばぬものだと思う。

 本来なら、国政の最高権力者の立場にある者は、こうしたどさくさ紛れの動きがあった時はこれをたしなめ、それぞれが今なすべき事を適切に果たすよう指示するべきであるのに。今後、収束よりも一層の拡大が予想される新型コロナウイルス汚染状況下でより深刻な非常事態が発生した時、この人達が更にどさくさ紛れの行動を起こさないよう、ウィルスと同様に見張っていなければならない。

(カナダ友好協会代表)

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