コラム・エッセイ
遅咲きの桜、今満開
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子地球温暖化と繋がるのか、暖冬の目立つ近年、桜の開花も年々早まるようで、昔ながらのイメージでは満開の桜に祝福される入学式が、花は散り尽くし、地上にも一片の花びらも残らない完全な葉桜状態のもとに行われたのは確か数年前のことだった。
自然界では早咲きの桜がすっかり定着したようだが、人生に咲く桜には早咲きもあれば遅咲きもあるのが、今も変わらぬ世の姿。咲く時期は様々に異なっても、花開く姿はそれぞれに美しい。以前にも紹介した若い仲間S君の近況。故あって高校生活を送ることなく年を重ね、社会復帰の道を探っていたが、周囲との様々な交流を通じて将来の目標を見出し、大学進学を目指すことになったのが半年前のこと。幸い受験資格は得ていたものの、長らく学習の機会から遠退いていて、入試突破には高いハードルが立ちはだかっていた。
それでもめげずに立ち向かう彼の少しでも力になろうと、つれ合いと私とで、それぞれの得意分野で協力することにした。と言っても、それぞれに仕事を持つ身で、その上、S君は福岡、つれ合いは山口と、遠く離れているから、顔を合わせて過ごせるのは週にせいぜい1日なのだが、この半年間の彼の努力は本当にいじらしいほどだった。
毎週の指定日には一度も休むことなく来訪し、私たちの解説を聞きながら参考書や過去問に熱心に取り組む。毎回、次回までの課題として示した宿題は全て手がけ、分からなかったところは質問をくり返しながら自力で解けるまでやり通す。
初めの頃は何もかも分からぬ事ばかりで、弱気な台詞も時には口を衝くこともあったが、その後の進捗は目覚ましいもので、「乾いた砂が水を吸収するように」驚くほどに向上して行く様子に我がつれ合いは「彼のセンスの良さは素晴らしい。理解力や思考力は私以上だ」といたく感心していた。
受験日が近づき、入試関連サイトからは志望学科の競争倍率15倍以上という数字が流れ、さすがに不安の様子を見せるS君を「小さなミスに気をつけて、普段の力を出すこと。合格レベルにあれば、競争倍率など気にすることはない」と送り出したものの、心の中では「五分五分かな?」と一抹の不安も抱きながら迎えた合格発表の日。「サクラサク」の文字と開花した桜がデザインされた合格通知がLINEの画像で転送されてきた。それを見た時の喜びは彼以上だったかもしれない。「良かったね!」と折り返し、「S君、合格したよ!」とつれ合い殿に連絡し、喜びを分かち合った。かなり遅咲きだが、見事に満開した彼の桜。しばらくは見頃を楽しんでいたい。
(カナダ友好協会代表)
