2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

志を持って

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 行動自粛もすっかり身についたこの頃、外に出る機会も出たい気持ちも抑えられて、家の中で過ごす時間が随分長くなっている。若い人ならこんな生活は精神的に大きなストレスとなるのだろうが、何とか持ちこたえ、身の回りの範囲で毎日することを見つけて暮らしていけているのは、長年生きてきたことで身についた生活の知恵のおかげだと思う。

 とは言え、家で過ごす時間が長くなるとTVリモコンを手にする時間が必然的に長くなっていて、これと思いを定めた番組を見るためでなく、手持ちぶさたのままに何となく電源ONしていることが多い。

 そんな状態で先日も何気なく見始めた番組に釘付けになった。途中からで、タイトルも、話がどのように始まったのか分からないままだったが、大規模農業を営む祖父の元で、担い手のいなくなった農地経営の後を継ぐ若い女性の行跡を伝えるドキュメンタリー作品だった。

 一般的な米作り農家の数十倍の規模の農地で米作りをしても、農作・収穫・出荷のための農機や、農薬・化学肥料の購入にかかる費用を差し引くと年間100万円にも満たない収益にしかならないという現実に、だれもが継続の意欲を失っていく中で、これをしていくらの利益になるということでなく、誰もが安心して美味しく食べられるお米を作りたいと祖父の跡継ぎを決意した孫娘。

 物事の価値は、これでいくらとお金の額で決めるものではないではないでしょうという彼女の言葉に深い感動と共鳴を覚え、広がってゆく話の後を追って画面を見続けた。

 安心して食べられる米作りにと、それまでの化学肥料や農薬に頼る農法から有機農法への切り替えを図るが知識も技術もない。伝え聞く先達を訪ね教えを請うと、自ら工夫して積み重ねたノウハウを惜しげもなく伝授してくれる。もし彼女が高く売って利益を上げるために知識と技術を得たいと願って尋ねたのなら決して受け入れてはくれなかっただろう。利益を求めてではなく、安心で美味しい米作りのためにという彼女の志を感じたから、惜しむことなく伝えたのだと思う。

 志を共に出来る伴侶を得、やがて祖父や父母の理解も得て自分の志を貫く農業に取り組む姿は、まるで小説の世界の筋書きのように感じられたが、これが実話だというところが感動的で、しかもこれは山口県での話で、山口放送が彼女の姿を13年間にわたって追い制作したものだということを最後に知り、彼女の姿が一層身近に感じられた。物事に取り組む動機は人様々で、いい悪いは軽々しくは言えないが、志を持って臨み、人に伝えることが出来れば、いつか実を結ぶものだと思う。

(カナダ友好協会代表)

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