コラム・エッセイ
接待拒絶
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子知らぬ存ぜぬでしらを切り通せば、いずれ世間の関心はコロナとオリンピックに戻り、おとがめなしで乗り切れるだろうと思っていたら、週刊誌のすっぱ抜きで逃れられない証拠を突きつけられ、ゾロゾロと処分者が首を並べた接待事件。今回の高額接待で特に目を引いたのが、最近何かと目立っていた内閣広報官の女性。エリート官僚の道を歩み、女性官僚としては最高の位置に上り詰めたということで、内閣広報官というのはそんなに重職だったのかと驚いた。
何年か前から中国やアメリカでは女性が広報官になっていて、広報官というのは発表内容よりもテレビ受けが重視される、そんな役割かなと思っていた。どうせ言うことは自分の意見ではなく、決まったことを伝えるだけだから、視聴率を上げるための人気アナウンサー登用と同じことかとひとり合点していたが、そうではなく官僚なら事務次官級の、政治家なら大臣級の位置づけということだから、この人余程の切れ者なのだろう。
そう言えば少し愛嬌を感じさせながら人を見下す感じありありのあの目は、それを裏付けているように感じる。そんな人が利害関係者からの接待を厳しく規制している公務員倫理規程を知らないはずがないし、これから合う相手がどんな人か知らないで会食の場に出向くはずもなく、誰に会ったか、何を話したか覚えてもないはずはない。そんな人が激烈な競争を勝ち残ってのし上がれたはずがない。
倫理規程は確かに厳しい。公的事業の受託運営をしていると様々な「お役人」と会う機会が多いが、その厳しさは想像以上で、高級料亭はおろか、昼食のコンビニ弁当も、お茶菓子も、そのお茶でさえ、決して口を付けず手も出さない。
ある時、所管官庁の担当のお嬢さんに、提出書類と一緒に、おやつにでもしてもらおうと、プリンを一つ忍ばせた袋を渡したら、次の日わざわざ年休を取って尋ねて来て、これが入っていたが受け取れませんと返しに来られた。
ことほど左様に厳しい倫理規程だが、それが守られるのはチェックがあるからだ。チェックを受けるのは部下で、チェックするのは上司。そして上司は自分をチェックはしない。上司が重なればチェックも何重にもなるから逃れることは難しく、自然に自分の行動を戒めるが、上司が少なくなるとチェックが薄くなるのはものの道理で、最早実質的上司がいない位置まで来ると、自ら律する気持ちがなければ倫理規程などなきが如しというのが今回の姿なのだろう。
年休まで取ってプリン1個を返しに来たあのお嬢さん。将来出世しても今の気持ちを忘れずにいて欲しいと、あの広報官の姿と重ねながら、懐かしく思い出している。
(カナダ友好協会代表)
