コラム・エッセイ
ワクチンよりも大事なものは
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子一足先に7府県で解除されていた緊急事態宣言が関東の1都3県でも解除された。一時は2,500人を超えた東京の一日感染者数も十分の一程度にまで減少し、飲食店の夜間営業制限の効果が明瞭に示され、目の付け所が良かったと、政府関係者はほっと胸をなで下ろし、内心誇らしく思っていたことだろう。ところが解除判断が迫る時期に期待を裏切る下げ止まり。それどころか少しずつ増加傾向が見えている。
もう少し宣言期間延長だとの声も上がるが、それは見当違いなのだと思う。感染爆発を押さえるために一点集中で飲食業の営業制限に的を絞った結果は功を奏し、予想以上とも言える感染者数減少となった。確信があったかどうかは分からないが、結果は吉と出て、先ずは成功と評価できる。しかし新型コロナウィルス感染の原因は一つではないことは確実で、密状態でマスクを外しての会食会話を抑制することで大幅な減少は達成できたが、それは大きな原因とは言えても、原因の全てではないから、他の原因が残っている限りは感染者数はゼロにはならない。飲食店の営業制限で達成できる感染者削減はここまでだったということだ。
この先は小なりとはいえ考えられる他の原因の解消、あるいは他の対策を手がけなければ安心できる結果は実現できないだろう。そしてそれは努力の割には一つ一つの効果は目立たないことの積み重ねになるから、多くの人を納得させ従わせることはますます困難になる。
様々な苦痛を伴う対策をどのようにすれば受け入れられるのか。人が苦難を伴う要請を受け入れるのは、受け入れないことの不利益が受け入れる苦難を上回る場合、受け入れることの利益が苦難を補って余りある場合、そして要請する相手を信頼して甘んじて受け入れる場合だが、利益への欲望は限りが無いから満たすことは不可能で、受け入れないことの不利益を与える法的強制力はないから、利益や不利益で多くの人を誘導することは難しい。
もっとも確実なのは強い信頼関係によるものだが、今日本で一番失われているものが政治への信頼だから、悲しいことにこれが全く期待できない。国民には自粛を求めるが、自分達は別だと高級クラブ通い。部下の官僚達は何のためらいもなく接待を受け、事実を否定し、バレれば記憶を失い、追い詰められると巨額の退職金を満額受け取って、お構いなし。
信頼関係など望むべくもない政治環境の中でもこれだけの感染抑制が果されていることに、日本国民の資質を改めて確認できた思いはするが、それにしても地に墜ちた政治への信頼のもと、新型コロナウィルスはワクチンで退治できても、この先更に降りかかる国難にどこまで耐えて行けるのだろうか。先の長くない身にも憂いは絶えない。
(カナダ友好協会代表)
