2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

別れのとき

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 いつ収まるか先の見えないコロナウィルス禍に翻弄されているうちに年は巡り、今年も年度替わりの時期を迎えた。学校で、職場で、それぞれの思いを込めた別れと出会いが繰り広げられたことだろう。 

 私たちの職場でも毎年のように人の動きはあるのだが、大抵は関わっているいくつかの事業間の担当替えで、職場は違っても同じグループに属する仲間なので、「今日からよろしく」のあいさつだけで、特別に送別会や歓迎会もなく、それで誰にも違和感はない。

 だが、今年は少し様子が違った。3年前に立ち上がった受託事業の一つで、創業期からチーフとして職場を管理し、自らも実務担当者として職場を作り上げてきたHさんが退職することになった。娘よりも若いHさんが、何をどうするのかもまだ固まっていないような新規事業の業務責任者として、しかもほとんどが自分よりも年上のおじ様、お姉様で、それぞれが専門家というスタッフ集団を率いて全てを取り仕切っていかなければならないのだから、その心身へのストレスは想像以上のものだったことだろう。

 様々な悩みを持つ若者の相談を受け、適切な支援先に繋ぐという役目を持った職場で、業務マニュアルや経験の蓄積もなく、担当スタッフの知識・経験をこの事業への思いと誠意で包んで相談に対応し、それぞれの結果を持ち寄って批評し合い、反省と改善を経て明日に活かすという毎日。どう対応すればよいか途方に暮れるような相談を受けたスタッフを励まし、試行錯誤を繰り返しながら粘り強く対応を続けた結果、家族や周囲の一切との交わりを拒絶していた若者が遂に心を開き、社会と再び繋がる第一歩を踏み出せるようになったことを、担当スタッフと共に喜びたたえる姿は美しく、頼もしいものだった。 

 様々な関係機関や学校への訪問、会議・研修会への参加による交流を重ねて外部との連携の絆を強め、スタッフの業務成果が上がるよう、華奢(きゃしゃ)な体をフル活動させて、文字通り八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍の日々だった。その甲斐あって、時を重ねるに従って事業の成果は上がり、それと共に、相談者、関係機関、それに事業委託元からのHさんへの認知度と信頼は大きくなっていて、Hさんに任せておけばこの事業は安泰と、すっかり安心していた。

 そのHさんの突然の退職。同じ職場に所属していた我がつれ合いにもショックは大きかったようだ。しかし、事業は永遠でも関わる人の時間には限りがあり、いつかは別れの時が来る。その時が今来たのだ。非常勤勤務者が多く、互いに顔を合わせる機会が少ない職場だが、この日ばかりは全員が集まって最後の会議を終えた後、別れの言葉を交わした。「ご苦労さまでした。何よりも健康を大切に、そしてこれからもこの事業と私たちを見守っていてね」と。

(カナダ友好協会代表)

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