コラム・エッセイ
新しい出発
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子3月卒業の後は入学の4月。数少なくなった我が家の学習教室でも、今年は珍しく小学6年生、中学3年生、高校3年生が揃い、4月にはそれぞれ中学生、高校生、大学生となった。月の変わりを境に日常が一変する姿を一度に目にし、半世紀以上のはるかな昔のそれぞれの自分の姿に重ね合わせて、思いを深めている。
そこにまた新しい入学の知らせが伝えられてきた。十数年前の春、同期の仲間と共にこの学習教室を巣立っていったMさんが専門学校に入学するという。しかも娘さんは小学校入学で、母娘同時の1年生。これでこの春は、我が学習室ゆかりの新入生は小学校、中学校、高校、大学、専門学校とフルコースとなった。
それぞれに、この日を迎えたことを喜び、その前途に幸あれと祝い祈る気持ちが高まってくるが、とりわけMさんの決意と行動には、高校生の時から長く付き合ってきた跡をたどると、感無量の思いがする。思い通りにはなかなか運ばなかった人生設計だったが、困難に打ちひしがれることもなく懸命に生きてきたMさんの姿を近くで見てきて、実際に手を差し伸べられることは何もないのだが、頑張って欲しいと気にかけていた。
保育園に通う娘さんと暮らすMさんから、国家資格を取るために専門学校への入学を目指すという話を聞いたのが昨年秋のことだった。幼子を抱え将来に向け自立を思うとき、仕事を持つために有利な資格を持っておいた方がよいと考え、普通では考えられない年齢になったが、一から挑戦してみようと思うと言う。
いつも人の後にいて、控えめで自信なさげな印象が強かったあの頃のMさんからは信じられないような力強い決意の言葉に、本当に驚いてその顔を見つめ直した。自分だったらどうだろう。同じ思いになるだろうか。いや、恐らく他の道を探しただろう。あのMさんにこんな決意をさせた力はどこから来たのだろう。幼い命を支える母の愛は、何事にも引っ込み思案で過ごしてきた少女をこんなにも強く変えることが出来る、そのことを彼女が目の前で証明してくれているように感じた。
学業から遠ざかって久しい彼女の相談に応じて、受験のための準備に出来る範囲の助言をしたりはしたが、実際にはほとんど役には立っていなかっただろう。受験の時を迎え、合格の知らせを持って我が家を訪れたMさんを祝福したのが昨年末のこと。そして今、留守にしていた我が家を訪れたMさんから、ラインメッセージと共に娘さんと二人制服姿の写真が送られてきた。これまで見たMさんの、一番明るい笑顔だった。この母娘に幸せあれと祈る。
(カナダ友好協会代表)
