2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

中曽根康弘名誉講師

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 中曽根康弘元首相が亡くなったというニュースが流れた。享年101歳ということだから、天寿全うの領域だが、つい最近までかくしゃくとした様子で世界情勢について論ずる姿が時折報道されていたので、長寿社会で年を重ねるなら、このようでありたいと思うこともあった。

 氏の政治経歴に示された思想信条に関しては必ずしも同調できないところはあったが、国のリーダーとしての姿勢には評価すべきものがあったと思う。

 その後現在に至る小粒の権力者達(敢えてリーダーとは言わない)との大きな違いは、昨今の権力者達は、政権担当期間の長短に関わらず、「自分がやりたい事」をやるためにだけ権力を振うことに専念しているとしか思えないのに対し、少なくとも故人は「自分がやらねばならぬ事」を自覚して政治に臨んでいたように思えることだ。

 一国民としての立場でしか接点のない私にはこの元宰相に対する感慨はこれで尽くされるのだが、我がつれ合いにとってはその感慨はもう少し広がりを持っているようだ。彼は中学卒業後、大阪のとある学校に進学した。戦後復興期で日本社会はまだまだ貧しく、進学するにも経済状態が厳しい環境が珍しくなかった当時、進学の意欲に燃える若者に機会を与えようと、立志伝中の財界人が技術学校を創設した。

 全国から応募選抜された生徒が全寮制で学ぶその学校には、創設者の豊富な人脈を通じて錚々(そうそう)たる人物が顧問、名誉講師などの職名で名を連ねていて、日常の教育の合間に定期的に来校し、教養講座を開いていたそうだ。

 講師には作家の今東光氏、顧問に作曲家の山田耕筰氏、新進の作家として売り出し中の若き日の石原慎太郎氏が特別講師など、多数の文化人・学会人が名を連ねる中に、名誉講師中曽根康弘の名もある。  

 当時青年将校と称された少壮気鋭のこの政治家の講話で記憶に残っているのは、氏が当時から好んで用いていた「結縁」「尊縁」「随縁」という語に関するもので、その中で海軍から復員した後に高等文官試験(今の国家公務員試験)に挑戦した時の猛勉強や、結果上位で合格した喜びを語った話が今も印象に残っていると思い出し語りする我がつれ合い。

 数多くの文化人、政界・財界人が来訪し、ケネディ大統領の弟ロバートケネディ司法長官も見学に訪れたことのあるこの学校も今は存続していないが、中曽根氏は自分たちの学校のことを覚えていてくれただろうかと偲び、「宰相中曽根康弘」よりも自分は「中曽根先生」のご冥福を祈りたいと、訃報を聞いて改めて若き日を思い出し語る我がつれ合いだった。(蛇足ながら、大勲位中曽根康弘氏も位階は従六位。殿上人ではなかったのだ。)

(カナダ友好協会代表)

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