コラム・エッセイ
いい名を下さい
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子形やサイズが規格外で売り物にならず、廃棄処理になっていた食材が商品名や包装を変えることで人気商品に変身し、稼ぎ頭になったという話が紹介されていた。売れるはずのなかったものが商品になり、しかもそれまでの正規品より好評だというのだから、生産者も、捨てられる運命だったその品も、こんなうれしいことはない。
発想の転換による一発逆転打、アイデアの勝利だ。こんな例は幾つもあって、その名前がなければ何の変哲もなく特徴もないと思えるロングラン人気商品もあるし、売れなかった芸能人や歌手が心機一転名前を変えて再出発というのも、よくある話だ。
食堂よりはレストラン、常時営業よろず屋よりもコンビニエンスストア、診療所よりもクリニックと言った方がそこにいる人にもお客にも心地よく響いて、繁盛につながる。
以前にも話題にしたが、航空機の女性乗務員はエアーガール → スチュワーデス → キャビンアテンダントと、時代と共に呼び名は変わっても女性の人気職業であり続けている(新形コロナウィルス禍下の今は少し様子は違うが)のだが、これがもし「機内女中」などと名付けられていたらどうだろう。
実際の仕事の内容は、乗客の受付をはじめ、食事の配膳、機内清掃・点検に保安、緊急時対応と、万事お客様は神様で、乗客の要求にはどんなことでも笑顔で応じる対応を求められる重労働で、実態は機内の女中(お手伝いさん)と言ってもおかしくない。そんな職業が女性にとって人気職種となっていたのは給与レベルの高さもさることながら、ネーミングによるところが大きい。
同じ給料であっても「機内女中募集」では決して人気職種には慣れなかっただろう。パラリンピック然り。「障害者競技大会」でなく「パラリンピック」と呼ぶことで、どれだけ参加者の心を軽くし、参加意欲を向上させ、観客の感動を大きくさせたことだろう。
社会生活の中での名前の大切さを繰り返し取り上げるのは、もう10年余り取り組んできたひきこもり者支援活動を通じて、かつてはそれぞれの家庭の中に秘められていた実態が次第に明らかになり、その数も年代幅も想像以上に大きく、最早個別の問題ではなく社会全体で対処しなければならない問題となった今も、相変わらず「ひきこもり」という言葉が使われていて、その言葉(名前)が当事者にも周囲にも行動する意欲を失わせることにしかなっていないことを思うからだ。
傷害者競技大会をパラリンピックと名付けたような智恵が何とかここにも湧いてこないものか。それによって救われる人生は確実に多い。
皆さんの智恵を是非拝借したいと願っている。
(カナダ友好協会代表)
