2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

危険の予感

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 就任後初の外遊を終えて本格的始動となった新政権。抽象的スローガンの羅列に終始し、結局そのほとんどを果たせないまま突如幕引きとなった前政権の後に、携帯利用料金の最低40%値下げ、文書への押印廃止と、非常に具体的で分かりやすい政策を掲げて登場した。

 料金値下げは官房長官時代から言い続けていたことだし、ハンコの方も、後先考えず長期戦略はなさそうだが、エネルギーだけは十分そうなハリキリボーイを担当大臣に据えてのことだから、何らかの成果が期待はできそうだ。

 しかしその背景を考えてみると、料金値下げの方は、知り合いの特定業者を意識しているようにも感じられるし、ハンコ廃止の方もこれを手始めに様々な規制を、誰かの都合のよいように緩めてゆこうという意図が見え隠れしていて、薄気味悪く、また危険の予感もする。

 その危険の予感を一層強くさせるのが、新政権が立ち上げた「成長戦略会議」だ。平成以降沈みっぱなしの日本経済の回復は政権の最重要課題の一つで、そのためにはしっかりとした議論のもとに揺るぎない方向付けをされた政策を立ててゆくことが必要だ。

 ところがそのための会議である成長戦略会議の主題になりそうなのは生産性の向上と経済弱者への一律無償給付金制度(basic income)の話らしい。これに恐らく大幅な規制緩和の話が加わるのだろう。この議論の先にどんな政策が出てくるか、危険の予感はますます膨らんでくる。

 生産性の向上が日本の国際競争力強化に必要なことは言うまでもない。どうすれば日本社会の生産性を向上させることができるのか、これはこの政権に限らずあらゆる政権の重要テーマとなるものだが、無償(だが低額の)給付金制度とセットで議論されるとなると、議論の意味は変わってくる。この会議ではどうすれば国民一人一人の生産性を向上させる事が出来るかを論じるのではなく、生産性向上競争について来られないものは遠慮なく切り捨てて、最低限の生活費を支給する代わりに二度と競争社会に参加出来ないようにするという結論に導こうという意図が読み取れる。

 そしてこの結論からは、生産性向上競争にとどまることのできた強者と、脱落した弱者をはっきりと区別し、弱者を切り捨てることで、達成した高生産性を維持しようという政策が打ち出されることだろう。そうなると、競争社会に馴染めず社会から取り残され、社会活動への参加に支援を必要としている若者たちへの公的支援の継続に暗雲が立ちこめてくるのを感じる。

 支援活動に携わる者として、そうした展開にならぬ事を祈るばかりだが、危うい予感はますます強まってくる。

(カナダ友好協会代表)

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