2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

無念、悲しみ、そして怒り

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 先月末のある日の全国紙に、父の誕生3日前に28才で急死した祖父への思いを、18才になる孫娘さんが投書していた。

 祖父の死を知ることなく父を出産した祖母への思いやりや、生前の祖父を知る人達から聞いた祖父の人柄に触れ、もし祖父に会うことが出来たら、あなたの生きた証は25年後に誕生する孫の私に受け継がれていて、たくさんの人に惜しまれるあなたの孫として生まれてことを誇りに思うと伝えたいと綴っていた。

 我がつれ合いの父も、息子の誕生を目にすることは出来たが、一年余り後には軍に招集され、還らぬ人となった。父親のことは声も姿も全く記憶に残っていない我がつれ合いにとって、自分はこの投書の娘さんのお父さんと同じに思えることだろう。

 急死の原因が病気なのか事故なのかはわからないが、それはご本人やご家族にとって不運な不慮の出来事であったということだろう。しかし我がつれ合いにとって父の死は不慮の出来事ではなく、国家という組織によって否応なく「合法的に」拉致され、死地に赴くこととを強制され、家族と会うこともなく逝かねばならなかったのだから、その無念さは計り知れない。

 生あるものに死が訪れることは永遠の原理で、免れることは出来ない。しかし不慮の死は、当人にはこの上ない無念を、遺された者には代え難い悲しみをもたらす。ましてや、望むでなく不慮でもなく、強制されて死に追いやられた人には、無念さと悲しみばかりでなく理不尽への強い怒りが伴って離れない。

 そうした無念や悲しみや怒りに満ちた霊魂を、一度に数百万も作り出したのが、あの戦争だ。

 先月23日の沖縄戦終結の日に続き、広島・長崎の原爆忌、そして8月15日の敗戦の日と、日本が、日本人が決して忘れてはいけない日が今年も訪れてくる。強制された死によってもたらされた無念さ・悲しみ・怒りと釣り合うものは、豊かな消費生活や強力な軍事力を持つことではなく、平和を実感しながら生きることの出来る社会を保つことだということを、日本が忘れてはならないこれらの日々に改めて思い起こしていきたいと思う。

 戦争の悲惨さと愚かさの記憶が薄れてゆく中で、そうした記憶を共有せず自己の利益追求に走る権力者達に支配された今日の日本の行き着く先が、再び無念と悲しみと怒りに満ちた無数の霊魂を生み出すことになる予感がしてならない。

 通い慣れた喫茶店でコーヒーカップに手を遣りながら、ふと目にした若者の思いに触れ、今年もこの時期が来たのだと感じたひとときだった。

(カナダ友好協会代表)

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