コラム・エッセイ
困った、困った。
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子毎年8月が近づくと周囲が一段と慌ただしくなる。今年で18回目となる英語研修合宿。海辺の合宿場研修を行うのだが、数カ月前からチラシを配り、参加者や施設と連絡を取りながら準備を進めてゆく。
英語への興味は共通だが、年齢も様々で、ほとんどが初めて会う間柄で、英語のレベルもそれぞれに異なる子どもたちが、短い期間とはいえ寝食を共にした共同生活をするのだから、研修や生活のスケジュール作り、教材準備、部屋割り、安全手配など、行事の実施日が近づくにつれ、担当スタッフはてんてこ舞いの忙しさになる。だが、17回も続けていると手順は決まってきて、要領も良くなるから、精神的なストレスはそれほどでもなく、無事実績を重ねていた。
ところが今回、突如難題が持ち上がって、名簿作成・管理役を務める我がつれい、頭を抱えることとなった。治安最高の平和国家日本だが、そんな日本でもこのところ頻発する、学校や多くの人が集まる施設での不審者侵入による傷害事件。人里離れ、自然一杯の場所にあるその研修施設は、研修目的には最高の環境にあるのだが、不審者侵入で事件でも起こったら大変だから、施設管理者が利用者管理に神経をとがらせるのも無理はない。昨年までは利用者の名簿を提出すればよかったのが、今年からは生徒達の送迎者の名簿も必要だ、すぐ提出しろとのお達しが来た。
これまでは研修の参加申込書があれば名簿完成だったが、改めて参加者全員に問い合せなければならない。これは大変だと思ったが、お役目ならば仕方がない。申込書には電話番号もメールアドレスもあるのだから、時間はかかるが何でもなかろうと取りかかった我がつれ合い、大きな壁にぶち当たった。電話が繋がらない。メールの返事がない。なぜかといぶかったが、思い当たった。電話に出ない、メールを開かないのだ。登録されていない相手からの電話が無視されることは、今のご時世では仕方がないことかもしれないが、困った、困ったと途方に暮れ、一縷の望みをかけショートメールで発信したら続々と繋がった。
歓喜のあまり、その晩やって来た生徒の一人に得意げに話したら「そんなん、常識じゃん」と一笑され凹んでいた。あんた達には常識でも、年寄りには新発見。だいたい、電話がかかってきたら何をおいても受話器を取るのが年寄りの常識だったのだ。世の中、便利になったのか、不便になったのか分らないが、何となく住みにくくなったと嘆く我がつれ合いに、少し同調したい気もする話だった。
(カナダ友好協会代表)
