2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

品質保証

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 秋の深まりを実感しているうちに立冬も過ぎ、冬支度に気持ちを向ける頃になった。今年もあと一月半。先週月曜は七五三の祝の日だった。この年頃では深刻な悩みなどなく皆無邪気に振る舞っていられるのに、成長と共にさまざまなストレスに対峙する中で、悩み傷つくことも多くなる。

 若者支援事業に携わっていると必然的に若者の様々な悩みについての相談を受けることが多い。その中で多いのは学校生活に関わる問題や悩みで、人間関係のトラブルや、学校生活に馴染めない等で学業不振となり、学校に行きたくない気持ちが高まって登校できず、それがひきこもりにつながって行くというケースが、とりわけ高校生で多い。しかし、中にはこんな相談もある。

 先週勤務中の昼食時にかかってきた相談電話。開口一番「高校中退したいんです」という女の子の声。ああ、ここにも学校生活に馴染めない若者がいるんだなと思いながら、しかし意外に明るく弾んだ声の調子に驚きながら話を聞くと、学校で勉強する意味が分からないから退学したいと言う。

 大学に行くのなら高認試験(高校卒業程度を認定する国家試験)を合格すればいいのだから、高校に通うのは無駄だと思うというのが彼女の主張だ。これは返事が難しい相談だ。彼女の主張は間違ってはいない。義務教育ではない高校は勉強嫌いや学校嫌いでなくても、必ずしも行く必要はない。

 ではなぜ行くのか?皆が行っているから?大部分はそうだろう。履歴書にも当然のように学歴欄がある。これはなぜかと考えると「品質保証」という言葉が思い当たる。

 たとえばある器具の部品を取り替えるときJIS規格取得メーカーの製品なら購入して取り替えれば万事完了だが、「これは私の手作り品です」という部品を持ってこられたら、寸法、重さ、性能、全てを検査しなければならないから、多分誰も買わない。

 しかし、これはこの分野では世界最高の技術者が作ったものだということなら、そのままで受け入れられるだろう。最近の例で言えば将棋の藤井四冠が高校卒業直前に退学したが、それを心配する人はいない。「高校卒業」という記載はあなたが定められた課程を身につけた人だということを品質保証しているということで、そんなものを必要としない力を自分はいつでも示すことが出来るというなら、必要ではないだろう。

 「で、あなたは今、高校を中退してでもやりたいことが具体的にあるの?」「それは、ありません」「それなら、慎重に考えた方がいいよ。休学なら復学できるけれど、一旦退学すると復学できないからね」「分かりました、もっと考えてみます。」まずは一件落着となった。

(カナダ友好協会代表)

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