コラム・エッセイ
見えない勲章
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子秋も深まり、11月。温暖化の酷暑も過ぎ去り、台風来襲も収まり、極寒の季節には未だ間があり、朝晩の涼しさに日中はほどよい暖かさ、天高く馬肥ゆる秋たけなわのいい季節。その11月の象徴のような文化の日が目前の日に、一足先の文化勲章級の嬉しい話がやって来た。
数年前から若者支援の事業を多くの仲間達と一緒に手伝ってくれているS君。訳あって長い間周囲と交わりのない期間を過ごした後、一念発起して半年間の猛勉強の末、昨年大学に入学した。同級生達とは一回りほども年上で、普通なら先々をあれこれ思案してなかなか踏み出せなかっただろうと思うが、今の彼は何もかもが新しい人生の出発点に立った感慨で一日一日を過ごしているに違いない。
S君の大学入学の動機はある国家資格の取得で、その受験のためには大学で4年間、さらに大学院で2年間学ばなければならず、それで合格するとは限らないのだから、険しい前途なのだが、この1年半いつも明るく学業と仕事に取り組む彼を頼もしく見守っていた。そんな彼の姿を神様も温かく見守っていて下さったのだろう、今年も訪れた受験期を前に耳寄りな話が飛び込んできた。
数年前に新しく出来たこの国家資格は、今年度までの経過措置で、関係事業で所定の実務経験があれば大学卒業なしで受験できるという。そして私たちの携わっている事業が関係事業として認められているというのだ。早速に受験資格申請したS君は再び猛勉強し、今年度の試験を受験した。
そんなS君を心から応援したし、是非とも合格をと祈るように願っていたが、正直言って可能性は低いだろうと思っていた。でも元々6年を覚悟していたのだから、本番前の模試と思えば余りショックにもならないだろうと自分にも言い聞かせていた。受験を終え、自信はありません、でもかなり手応えはありましたという彼の報告を嬉しい驚きで聞き、迎えた月変わりの日の合否発表。ラインメールに添付された合格通知の画像と喜びのメッセージ。1年半前の大学入試合格発表と同じ喜びを再び味わわせてもらった。
もし今年受験資格があることに気付かなかったら、幾ら努力をしても5年先でなければ得られなかったものを今手にした彼は、遅くスタートした人生のうち5年間を早くも取り戻したことになる。エスカレーターで同じ速度で進む道では決して縮まらない隔たりも、階段を自力で上れば追いつき追い越すことも出来る。
そんな彼の姿を同じ苦しみの体験を持つ若者たちが知ればどんなに力強い励ましになることだろうと、目には見えない勲章を胸に飾った彼の姿を、頼もしく嬉しく眺めている。(カナダ友好協会代表)
※おことわり:今回掲載の「見えない勲章」は15日(月)掲載分の原稿です。前回の原稿と順番が入れ替わってしまいましたことを、筆者と読者の皆様にお詫び申し上げます。
