2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

自由在宅

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 川崎の無差別殺傷事件。犯人がひきこもり状態だったということが報じられ、事件がひきこもりと結びつけられたばかりでなく、ひきこもりが事件と結びつくという印象を与えてしまった。3月末に内閣府から発表された、中高年のひきこもり者数61万人という推計値がひきこもりに対する世間の関心を高め、マスコミ上で様々な議論がなされていた矢先のことだったので、それと結びつけて記事を作るのはマスコミの習性としては通常のことかもしれないが、ひきこもり者支援に携わる者としては、とんでもない報道の仕方だと思う。ひきこもり者、家族、支援に携わる全ての人達も同じ思いに違いない。

 不条理で悲惨な事件はしばしば起こっている。だが、その事件を起こした者とひきこもり者とをどうして結びつけなければならないのだろう。そうは書いていないと記者は言うだろう。しかし、記事を見た者はそう思ってしまう。一度印象づけられると打ち消すことは難しい。そして次の事件が起こった。ひきこもりの息子をもつ親が、その息子を殺害するという事件が。自分の息子が、同様の事件を起こすのではないかと悩んだ末の出来事だという。

 様々な理由で社会との関わりに不安を持ち、望むような繋がりを築けないでいる者にとって、我が家だけが身を守れる安全な場所なのだ。だから我が家にこもることになる。それが、事件と自分を結びつける無責任なマスコミ報道の印象操作によって、我が家さえも安全・安心ではなくなると、完全に居場所がなくなってしまう。その結果の深刻さは計り知れない。マスコミの報道のあり方についてはその後批判の声が高まり、不適切な発言・報道は次第に収まっているが、実態に理解のないままに一般社会にすり込まれた印象は改めることはなかなか出来ず、これからもひきこもり者を苦しめることになるだろう。発言者・報道者は責任の重さを痛感すべきだ。

 ひきこもり者を不安にする要因の一つはその呼称にもある。他にすべなく我が家にとどまっている者にとって「ひきこもり」と呼ばれることはマイナスの作用しか与えない。接客員、教員、建築業者、運転手など、多くの人は従事する事柄を表す言葉で呼ばれるが、その状況を表す言葉ではあっても、その人を表す言葉にすることがいつも適当であるとは限らない。職名が「キャビンアテンダント」でなく「機内女中」だったら、世の才女達が憧れる職業になっただろうか。適切なネーミングは時に社会を変える力を発揮する。「障がい者競技会」と「パラリンピック」を比べて見ても明らかだ。自らを抵抗なく「○○○」と称することの出来る言葉があれば、気持ちは随分変わると思う。例えば「自由在宅」というのはどうだろうと、いま密かに思っている。

(カナダ友好協会代表)

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