コラム・エッセイ
確定申告
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子長のお勤めを果たし無事定年を迎え、昨日まで通った職場とも別れを告げ、健康保険の切替えや年金受給の手続、失業保険の申請と、教えられた通りに済ませ、第2の人生出発の手続きを一通り終えると、さあこれからは何にも誰にも煩わされることなくのんびりと過ごせるぞと思っていたのだが、思いがけない難敵が控えていたと、その頃を思い出し語る我がつれ合い。
年末になると突然、日頃縁のなかったお役所から分厚い封書が届く。日本国税務署様からの書類一式。初めて見る文字とマス目で埋まった用紙と、記入のためのガイドブック。そう、確定申告書。本来は一人一人自分でやらなければならないのだが、サラリーマンなら会社が代行してくれているので、定年を迎えるまで存在もやり方も知らないでも過ごせている。しかし会社を離れるともう誰もタダではやってくれないし、領収証も集めてくれない。
ガイドブックを見ながら一つ一つ帳票を確かめ、病院の領収書を丁寧に整理して集計表を作り(これが一番面倒!)申告書のマスを埋めてゆく。収入金額と控除金額をガイドブックを見ながら計算し、記入しようとするのだが1回ですんなりと出来たためしがない。何度も二重線を引いて訂正した格好悪い申告書と帳票綴りを抱えて提出会場を訪れ、整理券を手に順番を待って無事提出というのが定年後の大切な年中行事となっていた。
そのうちにパソコンの普及に合わせて申告書の作成が容易になり、データを打込んでプリントアウトし、二重線もないきれいな申告書と帳票を出せばよくなった。更に最近ではすべてパソコンから出来るようになり、画面のガイドに従って指示通りにデータを入力してゆけば何を考えることもなく完成させてくれて、最後のボタンをクリックすれば申告終了となるから、本当に楽チンなのだ。
ところが一つ大問題があった。この申告書作成アプリを起動させるためには登録パスワードを入力しなければならないのだが、年に1度しか使わないものを覚えてもいなければどこに記録してあるのかも分からない。様々なパスワードを10種くらい抱えているらしいつれ合い殿、覚えている限りのパスワードを試したがその度に「パスワードが正しくありません」と冷たく拒絶され、絶望的な挑戦を続けること10数度、ようやく記憶の底から奇跡的に拾い上げた11桁を入力して無事起動できたそうだ。
「申告書作成にかかった時間はパスワードを思い出すまでにかかった時間の半分以下だった」とつれ合い殿の報告。まず自分の記憶力を低下させない努力が一番大切なようだ。
(カナダ友好協会代表)
