コラム・エッセイ
よき出会い
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子突然の発症にも緊急手術を受け一命を取り留めた我がつれ合い。血圧上昇対策の減塩食にも馴染み、リハビリに励んで退院したのに、直後から食べたいものに手を出し塩分摂取量激増。そのあとに来た血圧急上昇に顔色を変えて減塩に舵を切った。
その甲斐あって低下した血圧値の記録表を持って、病院の主治医から紹介された地域開業医S医師のもとを訪れた。S医師は主治医のH先生が退院後の住所を聞き、「あそこならS先生という名医がおられるからお任せすればいい」と紹介状を書いてくださった先生だ。
M院長、H主治医、お世話になった看護師さん、リハビリ指導の皆さんに感謝を述べて病院の門を後にし、ほぼ1カ月半ぶりに屋外の土を踏みしめた。桜を満開にする暖かい外気を吸い込みながら我が家に戻り、思いがけず降りかかった災難の日々を振り返る。
心配をかけた皆さんからの暖かい心遣いに感謝の報告を伝えながら、まだまだ限られた範囲ではあるが自分の足で歩きバスにも乗って、行きたいところに自由に行ける安心と喜びを語り合い、明日の行動計画を述べ合うのだが、全部に同意するのは危険も感じ、ダメ出しも交じる。
そんな話の中にかならず入ってくるのが「あれが食べたい、あそこの店のあれも食べに行こう」という一言。切々と訴えるような望みの言葉についほだされて折角入院生活でSさんのおかげで身に馴染み、諸悪の根源の高血圧を遠ざけてくれた減塩食生活を一転させる。
元来た道へ引き戻してしまったのがつまずきの始まりで、それからの数日の、好きなものを好きなだけ食べるという蛮行の報いは急激な血圧上昇となってやって来た。
予期せぬ激変に恐怖を感じつつ、処方された薬だけは毎日間違いなく服用したものの、一向に低下傾向を示してくれない測定記録を携えて訪問したS先生のクリニックで、つれ合いが差し出す測定記録とその日測定した心電図の記録を前にして、S先生の血圧講義が始まる。
「ここ数日は低かったんだね。でも脈拍数は増えている。これが血圧測定値が低くなった原因だ。必要な血液量を送り出すために脈拍数だけ心臓が収縮している。1回当りに送り出す消す液量が少なければ血圧は低くなる。血圧が低いというのは脈拍数が多いことの結果ですよ。でも、だからといって薬剤で心拍数を増やせば良いというものでもない。しばらくは脈拍数も含めて記録を続けなさい。これから心電図をきちんと観察しましょう」
脈拍数は少ない方がいいのだと勝手に思い込んでいたつれ合い殿には、S先生のこの説明はよく納得できたらしい。以後毎日数度は計る血圧記録には脈拍数もきちんと記録されている。
自分と同年代に見えるS先生の解説に「目からうろこ」の思いを味わい、少なくともこの先生が「これでよし。もう心配はいらないよ」と言ってくれるまでは我が身はこの先生にお任せしようという気になっているらしい。
遠路をいとわず尋ねてくれる良き友に恵まれ、我が身を委ねるにふさわしいと感じる医師との出会いを得たつれ合い殿。その幸いをかみしめ、健康に今を生きられるしあわせを、家族と共に分かち合って欲しいと願っている。
(カナダ友好協会代表)
