2026年06月24日(水)

コラム・エッセイ

薬石効あり

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 命の危険もある病に倒れ、1カ月余りの入院生活の後、無罪放免の退院を得て静かに予後を過ごしている我がつれ合い。

 体調はすこぶる良く、毎日じっとしているのが耐えられないように、監視の目を潜ってはあちこち出歩いている。以前なら雨さえ降っていなければ自転車に乗って徳山駅周辺に出かけ、あちこちのぞくのが日課になっていたのだが、今ではさすがにそれはかなわず、代って日課になっているのが薬の服用。

 これだけは毎日欠かさぬようにと処方された薬を毎朝・夕、間違いなく飲めるよう薬ケースに一つ一つ確かめながら分け入れ、毎食後ちょっと苦しそうな様子で飲み下す姿は、新学期の授業が始まって宿題を課せられた新入生が「なぜこんなことをやらなければならないの?」と不満な気持ちを示すのと重なって見える。

 注射と服薬が大の苦手という我がつれ合い。普段から滅多なことでは病院に行こうとせず、健康保険証もほとんど使うことなく更新を重ねていて、確定申告の時期には誰もが面倒に思う医療費算出のための領収証整理もななく、健康保険会計の健全化にささやかながらも貢献している。

 薬嫌いにも自分だけの理屈はつけていて、以前から続いている高血圧にも「病院に行ってみてもらったら」と勧めても「行けば必ず降圧剤が処方され、飲み続けることを求められるだろうけど、血圧が高いということは、血液を必要なところに送るために、脳と心臓が懸命に働いている結果で、それを薬で無理矢理抑えては、必要なところに血液を送ることが出来なくなるだろう」と強硬に主張して通院を拒んでいた。

 それが今ではすっかり変わって、退院後そろそろ1カ月となる今では食後の服薬はきちんと習慣づいて、薬ケースの中味の種類と数を確認してから食事にかかるようになっている。

 薬は当然のことながら降圧剤が含まれているのだが、どうしてこんなに宗旨替えとも言えるほどの変化を起したのかと問うと、それはやはり入院中に手厚い看護を受けた看護師さんやリハビリ指導のスタッフ、毎日の栄養管理に意を注いでくれる食堂スタッフ、手当てをし、日々の体調管理をしてくれた先生たちの姿や声が浮かんで来るからだという。この人達にまた同じ面倒をかけることになっては申し訳ないという思いが、この習慣を根付かせているのだという。

 その間、はためにも体調はすこぶる良好で、動きも数や文字の扱いもスムーズで、本人も気になっている仕事復帰もそう遠くないと感じる今日この頃。世間では様々な人の体調悪化に続いて「薬石効なく」と報じられることも少なくないが、我が家では「薬石効あった」と断言できそうだ。

 もし、体調不良の中で薬石離れの気持ちが強い方がおられたら、その効能と必要性を十分に説明を受け、その効が発揮されることを期待して仲良く付き合う方にハンドルを切ることをお勧めしたい。人生の終着は「死」だが、目的は「生きること」だから。

(カナダ友好協会代表)

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