コラム・エッセイ
アバター元年
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子最近、メタバースという言葉を目にし、耳にすることが多くなった気がする。メタバースって何のこと?
メタというのは「超」とか「異なる」という意味で、バースというのは「空間」ということだから、超空間とか、異空間、聞いたことのある言い方だと仮想空間とかいうのだろう。
「で、それがどうしたの?」と思っていたのは私の方が時代遅れだったようで、聞くところでは2028年だか2035年だかには、メタバースの市場規模は90兆円超え、国家予算に匹敵するほどに成長するという見通しらしい。少なくとも、昨日今日突然話題に上ったのではなく、私の知らない広い世界では常識になっていたことなのだろう。
しかし青天の霹靂(へきれき)と言おうか、この春、我が連れ合いに突然襲いかかった大病で知った、その意味を、今度は自分が実感することになった。
長らく関わっている、ひきこもりやニートの状態にある人たちの支援事業で気づくことは、多くの利用者が周囲の人たちとのコミュニケーションをとることが苦手で、電話や面談で自分の希望を伝えたり話し合ったりすることが出来ず、支援活動が進みにくいということ。その原因の一つが、知らない人と素顔で話をすることに馴染めず、面談できないということだ。
そんな状況へのメタバース技術の応用にY女史からのお誘いがあったのが去年のことだった。Y女史は私たちの活動の長年のお仲間で、大学教授という立場で広い交友関係を生かして最先端の研究に取り組んでおられる。
かしこまった雰囲気の面談室で素の顔では言葉を発しにくいだろうが、自由に作られたリラックスできる空間(メタバース空間)で自分が好きに選べる姿(アバター)に変身してなら、出来なかった面談も出来るようになるのではなかろうか。
こんな発想から、ひきこもり相談、就労相談へのメタバース、アバターの応用を提案され、この春から行政の事業として試行されることとなった。メタバース作りにもアバター操作にも予備知識・経験ゼロの状態だったが、第1級のこの上ない技術支援体制のもと、おっかなびっくり始ったこの事業。始めて見るとなかなか面白いのだ。
実年齢や容ぼうに関わりなく、若作りの容姿に変身し、お気に入りの部屋で面談を試してみると、会話も弾む。呼びかけに応じて参加したひきこもり青年からも、これなら話せるとの感想も寄せられた。試行に加わっているスタッフからも好評で年齢にかかわらず楽しめている。
Y女史からのお誘いがなければ縁はなかったメタバース、アバター。どこまで広がるか分からないが、せいぜい楽しんで関わっていこうと張り切っている。
アバター元年を過ごした来年は、どんな世界が私を待っているのだろう。
(カナダ友好協会代表)
