2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

天高く

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 台風が過ぎ、カレンダーがめくれると、酷暑の記憶も日に日に薄れ、朝晩の肌寒さが感じられ、秋の到来を実感する。

 「天高く馬肥ゆる秋」と、よく言い習わされた表現は、実は古来中国では実りの秋を迎えると収穫物を狙った北方の騎馬民族の侵略が始まるのを警戒する呼びかけだったと昔習った記憶があるが、今では実りの秋、食欲の秋、行楽の秋を連想させる言葉になっている。

 若い世代にはスポーツの秋、静寂を好む人には読書の秋だろうか。受験生となる生徒達には「もう体育祭もすんだあなた達には勉学の秋しかないからね」と叱咤激励が口癖になる季節でもある。

 季節の移りが肌で感じられるこの頃、一向に収束しないウクライナ情勢、急激に進む円安と、騒がしさ・不安の種は尽きないが、目から耳から入ってくる情報は一斉に、なんとなく感じられるコロナウイルス禍への警戒感の下火感に乗じた「行楽の秋」キャンペーン満載となっている。

 入国制限大幅緩和、行楽費用への手厚い補助で、3年間待ちに待った、待たされた観光業界の期待を担った秋の始まりだ。

 訪れた各地の風物に触れることの大好きな私も、乗り物好きで友人を訪ねて遠出を楽しむ我が連れ合いにも、世が世ならば大歓迎の状況なのだが、ここ数年来、腰の痛みでじっと座っていられず、車にも電車にも乗れないし、春の大病後の療養生活で歩行困難を抱えた連れ合い殿も行楽の秋を楽しめる状態ではない。我が家にとってこの秋は「行楽の秋」ではなく「味覚の秋」に焦点が定まることになる。

 そんな時連れ合い殿にTさんからメッセージが届いた。Tさんは昔の生徒さんのお母さん。卒業後も家族ぐるみ親しくお付き合いが続いていて、収穫時期には採り入れた作物のお裾分けにあずかっていた。

 外出から帰ると入り口扉のノブに昨日収穫したサツマイモの袋がメッセージを添えて掛けてあり、ふかして、天ぷらにして早速に頂くのが毎年の習わしとなっていたのだが、自宅に戻れない今年は予想もしていなかった。

 今年も収穫しましたとの文面に、折角のご厚意ありがたいのだが、今年は恐らく帰れないので受け取ることが出来ませんと心の中でつぶやき目を移すと、お送りしたいので、宛先を知らせて下さいとの内容。

 うれしさの指先で早速の返信をする連れ合い殿。数日後にははるばる届いた安納芋を昨年までの味と比べながら、いつかはまた自宅に戻って味わう味を想像しながら私も一緒においしく味わうことだろう。

 天高く馬肥ゆる、味覚の秋、食欲の秋が、ずっとずっと続きますように。

(カナダ友好協会代表)

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