コラム・エッセイ
みどりのそよ風
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子6月も最終週。先週の土曜日23日は、今上天皇が「日本人が忘れてはならない日」の一つに挙げられた沖縄戦終結の日だった。
ちょうどこの日はつれ合い殿が加わっている「うたごえ喫茶周南」の例会の日に当たっていて、沖縄にちなんだ歌も幾つか加えたプログラムで、いつも通りピアノ伴奏に合わせて参加者、歌唱リーダー一体となっての熱唱のひとときだったようだ。
戦争に直接つながる体験や思い出を持つ人は次第に少なくなっていくが、戦争の悲惨さ、愚かさは絶えることなく語り継ぎ、記憶にとどめ、平和を喜ぶ心を広げていきたいと思う。
その日のプログラムは季節に合わせて雨や夏にまつわるものが数多く取り上げられていた。一つ一つ口ずさみながらたどっているうちに「みどりのそよ風」という曲名が目にとまった。
作詞・清水かつら、作曲・草川信のこの歌は、児童向けのやさしい歌詞とさわやかなメロディーの唱歌で、児童唱歌コンクールでよく歌われたそうだ。
緑のさわやかなこの季節に合わせて歌うだけでも気持ちのよい歌だが、この歌には知られざる(私が知らなかっただけかもしれないが)逸話があることをつれ合い殿が語ってくれた。
作られたのは昭和22年。敗戦から新しく生まれ変わろうと国中が立ち上がる一方で、戦争の名残もまだ色濃く、海外の戦地に動員されていた兵士たちを乗せた復員列車が国内各地に到着していた。東京の品川駅にも復員列車が次々に着いたが、その時、近くの「白菊児童音楽園」の子どもたちがこの歌で出迎えたのだそうだ。
戦い敗れて帰国してきた兵士たちはどんな思いでこの歌声を聴いただろうか。出征する時は歓呼の声と、おそらく勇ましい歌詞の連なる軍歌に送られて戦地に赴いたのだろう。復員してきた兵士たちがどこでも歌で迎えられたのかどうかは知らないが、品川駅を降り立った時、さわやかな初夏の光景を歌う子どもたちの歌声が迎えてくれたことは、驚きと大きな癒やしになったことだろう。
その時の情景を想像しながら、このように復員列車を迎えることを考えたのは誰なのだろうと思う。
打ちのめされ、疲れて帰ってきた人たちにとって、激励や感謝・慰労の歌でなく、日本の明日を担う子どもたちが歌う、日本の自然や日常の情景を描いた歌で迎えられた方が、どんなに力づけや癒やしになったことかと、納得させられ、この演出者のセンスをたたえたいと思った。
品川駅で歌った、私よりは少し年上になるこの子どもたち、存命ならば今はどこでどうしておられるのだろう。そんなことに思いをはせながら「みどりのそよかぜ いいひだね」と口ずさんでみた。
(カナダ友好協会代表)
