コラム・エッセイ
牛に引かれて
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子このところ思わぬ多忙が続き、いささか疲労困ぱい気味だったが、ようやく一段落。今度こそは頭上を覆う憂鬱(ゆううつ)な気分を一気に吹き飛ばしたいと思っていたところへ、娘からお誘いがかかった。
1週間遅れの「母の日」をストレスフリーで楽しもうとの提案で、行く先はハウステンボス。企画・手配・運転は娘、支払いはこちらと役割分担は決められていて、バタバタとスケジュールが決まった。すべてが決まってから我がつれ合いに声をかける。
「女・子どものお遊びに付き合いは気が進まないが、お疲れの慰労と母の日なら、仕方あるまい」と山口からバスでお出ましになった。ハウステンボスに特別な思いはなかったが、「牛に引かれて善光寺」ならぬ「娘に引かれてハウステンボス」詣でとなった。
ドライバー役の娘からは1時に出発という連絡メールを受けたものの、一向に現れず「いつものこと。あと2時間はかかる」というつれ合いの予想通り3時の出発となったが、「すべて想定内。なに、急ぐわけでなし、事故を起こさぬよう、ゆるゆる参ろう」とのんびり出かけた。
福岡を過ぎ、佐賀県に入ったころにはワイパーも効果がないほどの土砂降りもあったが、佐世保に入り現地に着いたころには雨もほとんど上がり、まだ明かりなしでも周囲が見渡せる敷地内を、雨のせいかあまり混雑のない中、非日常的な施設満載の光景を楽しみながらホテルに向かった。
以前訪れたオランダ村のころの光景とは雲泥の差で、見るもの聴く音は随分と楽しく、日ごろ、具合の悪い膝も軽やかに感じながら足を進めた。
ホテルのロビーでは、毎日開かれるという夕べのコンサートが準備されていたが、まずは夕食をすませてからと、開始直前に訪れると、30ばかりの席はすでに満席。ヴァイオリン、チェロ、ピアノの三重奏が始まった。
どうせ無料の、宿泊客サービスのコンサート、大したことはあるまい、さわりだけ聴いたら部屋に帰ろうと立ち見での鑑賞となったが、演奏が始まって驚いた。演奏曲目はどれもよく知られたもので、それだけにさまざまな演奏者の音を聴いているが、この3人は大変なテクニシャンで、その素晴らしい音色に聴きほれてしまった。
昨年末、東京のサントリーホールで聴いたN響の音色よりも格上と感じたほどで、結局、最後まで聴き続け、部屋に戻った後もしばらく賞賛の感想を述べ合い、安くはなかった宿泊料の、元はこれで十分にとれた思いだった。
翌日は快晴。満開のバラ、色づき始めたアジサイなど花々にあふれた園内を巡り歩き、つれ合いがうんざりするほどのお土産を買い込んで、満ち足りた気持ちで高速道を帰路についた。いい母の日を、ありがとう。
(カナダ友好協会代表)
園内の一角で
