2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

1日45時間への感性

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 政権の目玉政策として今国会で成立を目指してきた「働き方改革関連法案」から肝心の裁量労働制の適用拡大の法案が削除された。向かうところ意のかなわざるところなしの勢いで国政をとり仕切ってきた最高権力者にとって、屈辱の思いだろう。

 裁量労働制の論評にはここでは立ち入らないが、制度推進のためと省庁が用意した調査資料が疑惑だらけであることを自ら認めざるを得ない状態では、削除もやむを得なかったのだろう。お粗末な失態に、優秀な官僚がそろっていながらなぜ?との思いを誰しも抱いたことだろう。

 この問題を取り上げたニュース番組のコメンテーターが「官僚の質が低下しているのですよ」と語っていたが、「質の低下」が課題処理能力の低下ということなら、それは少し違うと思う。課題を処理する能力に関しては、彼らはおおむね優秀だ。問題は、彼らが仕事を進める上で人間的感性を働かせる環境から離れてしまうことから起こるのだと思う。

 私たちの団体では、年度末の現在、受託している国の事業の活動報告の提出準備に大忙しの毎日を過ごしている。その中には会計報告もあって、膨大なデータを処理・加工して必要な資料を作成しなければならない。どこかにミスが起こりはしないかと、慣れない身には気が滅入るが、実際にはそれほど大変ではない。

 所轄官庁から送られてくるファイルを開き、所定の欄に元データを打ち込めば、あとは自分で計算する必要も、転記も、作表も全く必要なく、あっという間に仕上げてくれる。ミスなど起こりようがない仕組みになっていて、省庁の担当者の自作らしい。

 たいした能力で、こんな能力のない私なら一カ月くらいかかるかもしれないから、驚くべき生産性の高さだ。こんな高い能力を持った人が、1日の残業時間が45時間などというデータを見逃すはずがない。おそらく問題の資料を作った官僚たちは元データを見ていないのだ。

 彼らに必要なのはデータを処理して得られた結果だから、元データの打ち込みは外部に委託し、途中の処理はコンピューターに任せて、結果だけを利用するという仕事の仕方になっているのだろう。もし、元データの打ち込み、計算の途中経過に目を通していたなら、コンピューターには備わっていない感性が働いて、おかしいと気づいただろうと思う。

 結局すべてがやり直しとなって、手作業よりも時間も労力も費やすことになり、生産性は大幅に低下した。どんな仕事にも生産性向上は必要だが、人間の感性で全体を見渡すことを忘れてはならないと思う。

(カナダ友好協会代表)

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