コラム・エッセイ
春の嵐に散った夢
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子2月も残りわずかになったころ、新年度の事業計画を作り終え、目の回るような忙しさもようやく一段落した。この事業は1年ごとの契約なので、毎年、同じ時期に膨大な資料を作成し、入札審査を受ける。肉体的疲労だけでなく、精神的にも苦痛が大きく、何とか複数年の契約にと事業主の国に要望するのだが、応じる気配は感じられない。
とにもかくにも資料を提出し終えて、ほっと一息。折しも我がつれ合いの後期高齢者仲間入りの日の到来となり、慰労と誕生祝いを兼ねて娘と3人、家族旅行に出かけることになった。仕事のために体を動かすことには消極的だが、遊ぶことにはこの上なく積極的な我が娘、本領発揮はこの時とばかりに、縦横にネット情報を収集し、旅のプランを練り上げた。
行き先は春の京都。行き帰りは瀬戸内海の豪華フェリー、ホテルもハイランク、祝い膳のメニューも日常生活では考えられない豪華版で、祝われる本人のつれ合い殿が「大丈夫か?」と心配するような内容。
「うれしいことだが、うれしさで天にも昇る心地のまま、本当に天に昇ってしまうのでは困るな。後期高齢まで生きたとはいえ、まだしたいことも残っているし」と、縁起でもない冗談もこぼれていた。
それから後は修学旅行を待ちわびる小学生のように、家族3人、出発の日を指折り数えて待った。ところが、あと数日に迫ったころ、日本列島を不穏な空気が覆い始めた。しばらく前から居座り続ける上空の寒気団と列島南方に発達した低気圧の影響で、大荒れの春の嵐の襲来となった。
あすは出発となったその日も天気予報は変わることなく、海上もかなり荒れるようだ。以前、ひどい船酔いを経験している娘は恐れをなし、尻込みし始めた。
「大丈夫。1万5千トンもある船が瀬戸内海の波ごときで大して揺れるはずはない。大船に乗った気持ちで、出発だ!」というつれ合い殿の説得に耳を貸さず、船会社に問い合わせると、欠航ではないが、揺れないとは言えないとの返事に、気持ちはすっかり拒絶。
まさか1人だけ置き去りにするわけにもいかず、行き帰りのフェリー、ホテル、宴席とバタバタとキャンセルの手続きを取った。
幸いキャンセル料を請求されることもなく「また、おいでやす」の優しい声にほっとしたのだが、数日間の極上生活の夢を春の嵐に吹き飛ばされたつれ合い殿の心中、いかばかりだったろう。
「まあ、仕方がないよ」という声を少しでも慰めようと、近くのホテルのささやかなランチで誕生祝いとなったのだが、「これで良かったのだよ。いい夢も見させてあげたからね」という声がどこからか聞こえてきたような気がした。
(カナダ友好協会代表)
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