コラム・エッセイ
春を待つ
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子小寒、大寒と日本中がふるえていたころ、我がつれ合いが朋友のIさんとメールを交わしていた。
「一筆啓上 近況如何 寒波到来 関東大雪 交通難渋 各駅混乱 貴殿高齢 転倒注意 感冒流行 健康留意 当方息災 頓首再拝」
四文字熟語の羅列のような怪しげなものだが、解説すれば「拝啓 お変わりありませんか。寒波でそちら(関東地方)は大雪に見舞われ、交通混乱や駅の混雑が起こっているようですが、もうご高齢の身なので転ばないようお気をつけ下さい。インフルエンザもはやっています。くれぐれもご自愛下さい。私の方は変わりなく過ごしています。では、また」というところか。
折り返しIさんから返信があった。「拝復予報的中果然帰途難渋交通機関所要時間倍増路上歩行困難但我輩慎重無事故安全帰宅祝杯謝謝」。四文字刻みではないが、これも漢字ばかり。しかし何とか意味はわかる。
後期高齢の域内にある男同士がこんな遊びをしているうちに、時は、はや立春。立春と言っても感覚は冬の真っ盛り。とても春とは思えないが、それでも酷暑の中にも立秋の声を聞くと吹く風になんとなく秋の涼しさを感じ、小寒、大寒に合わせるように一段と寒さが厳しくなるのを体感していると、これからは次第に春到来を思わせるあれこれが伝えられてくるのだろう。
つれ合い殿たちが催しているうたごえの例会も、今月は「早春賦」の歌で始まるらしい。立春の前日は節分。節分と言えば幼いころの思い出は「鬼は外、福は内」の豆まきで、まかれた豆を拾って歳の数だけ食べれば、その年は無病息災と教えられ、無心に豆を追ったものだが、今では、少なくとも我が家では、思い出の昔話になっている。
代わって進出してきたのが恵方巻き。初めのころは、確か大阪辺りの風習として紹介されるくらいの扱いだったのが、商売になると目をつけられた途端に全国に広まり、節分が近づくとスーパーには特設コーナーが設けられ、コンビニエンスストアには予約受付の大書が躍るのが通例になった。
まあ、由来はよくわからなくても、日本発祥の行事が広まることは、クリスマス、バレンタインデー、イースター、ハロウィーンと、外来行事が幅をきかせている中ではいいことかもしれない。
このところ巻き寿司づくりに関心を高めているつれ合い殿も、この時期には材料をそろえて手際よく巻き始める。
しかし、彼に言わせると、これは恵方巻きではなく、あくまで巻き寿司。心を込めて巻いたものを、両手で握って丸かじりなどの不作法は許さぬと、せっかくの春の訪れを押し戻すような頭の固さを見せている。
裏庭の早咲きの桜はそろそろ出番を待っているようだ。
(カナダ友好協会代表)
