コラム・エッセイ
光、甦れ。
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子年の明けた先日の新聞にiPS細胞で光感知機能回復というニュースが載っていた。まだネズミを使っての動物実験の段階のようだが、治療困難な遺伝性の目の難病が、iPS細胞から作った網膜組織の移植で治療できる可能性が見いだされたというのだ。
iPS細胞作成技術の発見と応用技術の開発は、さまざまな身体障害に悩む人にとってはまさに福音であり、希望の光であるに違いない。人の命を広範・大量に奪う兵器の開発や、欲望をみたすための利権追求に費やす費用と能力と時間のすべてを振り向けて、さらには、人間に取って代わろうとするAI(人工知能)技術の開発など後回しにしてもいいから、一日も早く実用化に達するよう、人類の総力を挙げて取り組むべき課題だと思う。
私がこの記事に特に目を引かれたのにはもう一つわけがある。
もう随分前のことだが、春と夏にバンクーバー市を訪問し、ホームステイをしながら文化交流するカナダ友好協会の国際交流事業「カナダフレンドシップ大使」のある年の参加者に、Oさんという女子中学生がいた。
出発前の事前研修会にはお父さんが一緒に来られ、実はOさんは不治の病とされる目の病気(それはこのニュースで報じられたものと同じ病名だった)で、今はまだわずかに視力が残っているが、いずれ光を失ってしまうことになる。そうなる前に、せめて思い出となる光景を記憶に残せるように、この旅に参加させてやりたいと語られた。
それを知って改めて見たOさんへの不憫(ふびん)さと、自分の力ではどうすることもできない中で、娘への思いを語るお父さんの言葉に感動を覚えながら、2週間の旅に同行した。
行く先々で一行を代表してメッセージを発信しながら初めてのカナダの旅を終えたOさんの記憶に、カナダでの体験はどのように焼き付けられたのだろう。その後のOさんの消息は知らないが、恐らく30代を生きているであろう彼女が、自分に光が甦るかもしれないというこのニュースを知れば、きっと大きな喜びに包まれていることだろう。
実用化にはまだまだ課題も多く、何年後と明確に示されたわけではないけれど、いつかきっとその日が来ると信じるならば、大きな希望が膨らんで、明日も明るく生きてゆくことができるだろう。どうかどこかでその日の到来を夢見ながら、力強く生きてほしいと願わずにはいられない。
(カナダ友好協会代表)
