コラム・エッセイ
丁寧な仕事に満足
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子ガソリンスタンドの女性従業員が、仕事に厳しそうな美しい女性客から丁寧な仕事ぶりを褒められる。最近お気に入りのコマーシャルのシーンだ。競技会などで評価を受けるのもうれしく誇らしいものだが、意識しないでした結果を、しかも自分が一番心がけていたことを評価されることは、同様に、あるいはそれ以上にうれしいことだと思う。
女性従業員の心を満たすであろう充足感を想像させる余韻を残す構成も好感が持てる。
何気なく話題にしたコマーシャル評を聞いた我がつれ合いがそれに続けた。「そのコマーシャルは知っている。なかなかいい出来だ。実はきょう、似たような体験をした」
日本人で平均約10万本と言われる頭髪の大部分を失ったものの、まだまだ散髪は必要で、その日も近くの格安店へヘアカットに出かけた。以前、息子の行きつけの理髪店でフルセットの理髪サービスを受けた時、やはり短時間格安のヘアカットオンリーとは違う、と感想を語ったことを紹介したが、安さの魅力には勝てないらしく、依然としてヘアカットオンリー愛好だ。
指定されたシートにいつものように座り、鏡に向かい、聞かれるままにスタイルの注文をし、半ば目を閉じてはさみ裁きに身を任せていると、その日はいつもと違う心地がしたそうだ。もみあげ付近から始まって、後頭部、頭頂部へと移っていくはさみの動きのリズムがこれまでと違うと感じたというのだ。
散髪に限らず、日ごろ慣れた作業には一定のリズムがある。例えば行きつけの喫茶店では、店に入る、席に着く、注文する、コーヒーが出てくる、が毎回、一定のリズムで流れ、それがリラックスにもつながる。
格安理髪店では作業の流れは当然速くなる。客もそれが格安の条件だと承知しているから何の不満もないのだが、今回はいつもとリズムが違う。はさみの動きが丁寧なのだ。
最初だけかと思ったら最後まで。技量不足で時間がかかったのではなく、見事なはさみ裁きで、ひげ剃りまで終えて完了。「お疲れ様でした」の声を聞いて椅子を離れる時、感慨深く「随分丁寧なお仕事ですね。満足しました」と声を掛けたそうだ。
「コマーシャルの美人と違って、風采の上がらない老人に褒められてもうれしかったかどうかわからないが、気持ちよかったことは確かだ。指名できるのなら、次もあの人にやってもらいたい」と語る彼に限らず、同じ思いをした客は多いのではないだろうか。
こんな体験があちこちで出来たら、毎日が随分楽しくなるに違いない。
(カナダ友好協会代表)
