2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

78年

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 晴れ間と暑さが目立ってきて、梅雨はどこへ行ったかという思いを重ねているうちに今年も夏が、そして日本人にとって忘れてはならない日の続く時期がやって来た。

 鎖国を破った開国以来の膨張政策で戦いを繰り返し、戦えば勝つ神国との錯覚にとらわれ、紛争解決の手段としてのめり込んできた抜き差しならない戦争の果てに、開国以来初めて経験する領土内地上戦(実際には硫黄島でも南樺太でもあったぞと突っ込みが入ったが)となり、兵士ではない多くの島民を含めて20万人以上が犠牲となった沖縄戦が日本軍の敗北で終結となった昭和20年6月23日を長く記憶にとどめるため、6月23日が慰霊の日と定められてから78回目となった先月23日。

 各メディアはこぞって特集番組・紙面を設けて、この日を迎えた現地の声を伝えていた。78年という時間は長い。

 家族や友人、地域の住民との日々の営みの中で青春を謳歌するはずの日々を教室を離れ、戦争を支えるための生産や医療の現場に狩り出され、時間を奪われ身近な人の死に直面する体験を強いられた人たちが、失われた時間と命への追悼の思いと共に、平和を望み戦争を憎む気持ちをそれぞれの胸に宿し、時に応じて若い世代に伝えながら齢を重ねてゆく姿が毎年のように紹介された。自分たちだけの持つ体験を文字や画像ばかりでなく音声で伝えることで、体験を共有しない世代に一層確実に伝えることの大切さを気づかせてくれていたが、思えば時間は残酷でもある。

 自分の持つ体験を語り伝えようとする気持ちを持つ人の、声を発する体力と気力さえ容赦なく奪ってしまう。戦争の悲惨さを訴えるのに十分すぎるほどの体験を持ち、語り部として活動してきた人たちが次々と、もはや語れぬ人となってゆく。

 どんなに若くても今は80歳以上になっている戦争体験者はあと20年もすれば皆無状態になろう。地上戦の体験ばかりではない。わが連れ合いは51歳の時父親の50回忌を営んだ。1歳で父を失っているのだ。この年代にとって珍しいことではない。多くの同級生たちも同じ体験をしている。

 戦争に父親を殺された最後の世代だ。戦争の恐怖と身近な人の死に直面する体験を地上戦を体験した人たちと共有はしていないが、戦争のもたらす悲惨さの体験は共有できると折に触れて語る。戦争の悲惨さ愚かさは、体験し語り継ぐ者の声が聞こえなくなれば次第に忘れ去られてゆくこと、それと共に戦争のもたらす利益で為政者たちを紛争の決着を戦争に求める道に誘う声が強くなることは、他国の歴史をたどるまでもなく、自分たちの周囲を見ればよく分かるという。

 8月6日、9日、15日と続く「日本人が忘れてはならない日」には、戦争の愚かさと悲惨さを体験で語れる最後の世代の一人として若い人の誰かに伝えたいと一段と改まった顔で語るのに、同意の頷きで答えながら聞き従った。

(カナダ友好協会代表)

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