2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

何日君再来

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 つれ合い殿の朋友、Aさんのお母さんが亡くなったのは数年前のことだった。私の母や、つれ合いの母上とほぼ同年で、私たちも同年なのは偶然だろうが、この年代の女性はほぼ同じ年ごろに結婚し、母となることが多かったからかもしれない。

 高齢になってからも随分お元気で、一人で海外旅行に出かけることもあったと聞いていたが、天寿を全うとも言える生涯を終えられた。

 そのお母さんが生前、自身の半生の思い出をつづり、自費出版されている。我が家の本棚にもAさんから贈られた一冊が収められていて、その背には「何日君再来」と記されている。

 結婚し、夫の赴任地である中国大陸に渡る船中の光景から書き出され、社業に献身する夫を支えながら子どもを育て、家庭を守り、やがて敗戦と共に命からがらの思いで日本本土へ引き揚げ、一家の大黒柱の夫を病で失うという苦難の中にも、いつもユーモアと笑いを忘れず、乗り越えて来た日々を、周囲とのさまざまな交流や出来事を思い出し、懐かしみながら書きとどめている。

 同じ時期、同様に中国で生まれ、戦争で父を失い、戦後の辛酸をなめた経験を持つつれ合いには、そこに描かれている事柄に、自分を容易に移し込むことができるようだった。つれ合い殿の母は生前、外地での生活をほとんど語らず、書き残しもしなかったが、もしこの本を手にしていたら、自分の思いや思い出を重ねながら、懐かしく目を通したことだろう。

 戦争を体験した人たちにとって、日々の生活の中での出来事が時に懐かしく思い出されても、戦争そのものにはいいことは何一つない、戦争は庶民の生活を破壊し、悲惨さだけを生むということは共通した思いだろう。

 その悲惨さを体験した者がほとんどいなくなった今、再び悪夢を繰り返させるような素地づくりが進められる政治の動きを警戒せずにはいられない。

 先月初めのこと、同期会で東京を訪れたつれ合い殿は、Aさんから「映画になった」と告げられた。

 母上の著書「何日君再来」が映画化されたというのだ。著者の孫で、Aさんにはおいにあたる人が映画化を企画し、このほど完成したという。

 来月には全国で公開されるというその映画の題名は「いつまた、君と」。企画者で主人公の夫を演じているおいごさんの名は「向井理」という。

(カナダ友好協会代表)

完成した映画のチラシ

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