2024年10月08日(火)

コラム・エッセイ

生産性向上

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 実りの秋を前にして米不足の噂が走り、スーパーの売り場から米が消えたという報道に、すわ、令和の米騒動と国中がざわついた。

 実は我が家でも生協の注文票に米1袋チェックを入れた。特に目立った値上がりも販売制限もなく、いつものように配達されて一安心だったが、こんな積み重ねが「米不足」を引き起こしているのだろう。人気店の大行列にも同じ心理が働いている。

 米不足が報じられるとニュース番組ではそれぞれのコメンテイターが日本農業、農政の問題点を数え上げ、消費量に見合う範囲に生産量を抑えることばかりに力を注いできた農政のツケがこのところの地球温暖化の影響を受けた米不作に連動して現れていると解説する。

 狭い国土の限られた耕作地に水田を開き、育てた米を主食として二千年の歴史を重ねてきた日本で、大切な主食の生産が後継者不足で危うくなるような状態をどうすればよいか、これまでもさんざん議論されてきたと思う。

 その結果は、結論は簡単だが、問題解決への歩みは遅々として進まないということ。米作りはかけた労力とコストに見合う収益が上がらない。若者にとっては、将来に希望を持って受け継げる職業にはなっていないというのが結論で、ではどうすればよいかとなると、米作りが、後継者となる若者に魅力あるものと映る流れは作られていないのが現状だ。

 どんな産業分野でも好悪のうねりは必ず起こり、業績の傾いた企業の立て直しにまず掲げられるのが、無駄を省いたコストカットと「生産性向上」のスローガン。費やされる資源と労働力に対して、得られる成果をより大きくすること、あるいは出来るだけ少ない労働力で同じ成果を得るようにすること、つまり労働生産性の向上に努めて一人当たりの利益を増やそうとする。

 でも、日本の米作り先祖代々何百年に亘って品種改良、土作り、耕作技術開発に取組んだ結果、水田面積当たり収穫量はおそらく世界最高の域に達しており、その上おいしい米作り技術を完成させている。労働生産性は十分に高いのだ。

 それにもかかわらず他の産業分野に比べて魅力ある収益につながっていないのは、消費者には主食としての役割を果たしつつ、高い生産性に見合う収益が得られる仕組みが出来ていないからで、どのような社会システムにすればそれが出来るかを具体的に検討し尽くし、そのために必要な法を整備することを怠ったことが日本の米作りを脆く希望の持てないものにしてしまった。

 政権党の総裁戦や野党第一党の代表戦の議論でも日本農業の問題に言及するものはあったが、米作り継続システムの構築の不備、法体制整備の不十分さを指摘し問題にする議論は広がらなかった。

 日本の米作り安定継続に必要なことは、生産性の向上ではなく、米作り農政の確立に関わる行政府と立法府、即ち官僚と国会議員の生産性向上にあると改めて感じる。裏金問題隠し作業の生産性向上など断じて無用に願いたい。

(カナダ友好協会代表)

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