2026年05月02日(土)

コラム・エッセイ

定義の問題

新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子

 支払いと納付。この言葉を聞いて何のことを話しているのかピンと来た人は、臑に傷持つ先生方が一番会いたくない「こわーい人」かもしれない。

 私は臑にかすり傷もないけれど、年に何度かはこの言葉に向き合って、頭の中がこんがらがって疲れ果てる思いを繰り返している。

 縁あって若者支援事業に関わって、はや十数年。利益皆無の受託事業だからパーティ券売り上げのキックバックなど無縁、隠し事一切なしの透明経理で、税務署だろうと会計検査院だろうとこわい相手ではないのだが、話の内容によっては頭の中がブレイキン状態になる。それが支払いと納付。いくら利益と関係なくてもスタッフの給料は支払うから、税金や社会保険料を納めなければならない。

 大企業なら経理作業も人手を介せず間違いなど起こらないのだろうが、何事も人手中心の慎ましい組織では数字を一つ一つ目と手で確認しながら進むから、時には、これがどれに対する納付だったかを役所に確認しなければならないことがある。

 (私)「これは何月分の納付ですか?」

 (担当者)「×月分の支払いに対する納付です。」

 (私)「ではその前月の〇月分の給料に対する納付額ですね?私共では先月分の給料を今月支払うので、×月の納付は〇月分の給料に対するものですね?」

 (担当者)「×月の納付額は×月に支払われた分に対する納付金ということです。それが何月分の給料かは、こちらでは分かりません」

 そういうことかとその場は納得なのだが、知りたいのは×月の納付金が何月分の給料に対するものかということで、「それは〇月分に対するものです」と言ってもらえれば簡単明瞭なのだが、聞かれた方には他に答えようはないのだ。

 こんな時間の無駄が起こるのは、「支払額」を私は「×月支払われた〇月分の給料の額」と思い、担当者は「×月に支払われた(何月分かは分からないが)給料の額」としてやりとりしていたからで、同じ言葉を定義が違うままにやり取りしていると、思わぬ食い違いが生じ、とんでもない結果を招くことがあることは、小さな世界でも大きな世界でも多くの人が経験していることだろう。

 ここに挙げた支払いの例もその一つなのだが、最近気になっているのが「居場所」という言葉。不登校、ひきこもりなど、若者達にかかわる大きな社会問題への対策が国を挙げて計られる中で「居場所」作りが官民学で広く進められている。

 居場所が持てない若者達に居場所を提供しようと、様々に工夫された居場所づくりが進められているのだが、気になることは「こんな居場所が良い」「こんな居場所が出来た」という話は多いのに「居場所とは何か」という定義がはっきりしていないこと。出来たものが良ければいいのだろうが、それでいいのだろうかという疑問は解けないでいる。

 「それでいいのだ」と言い切るバガボンのパパにはなれそうにない。

(カナダ友好協会代表)

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