コラム・エッセイ
リーダーとディーラー
新しい出会いに向けて-この町・あの人・この話- 浅海道子世界最富最強を自認するA国大統領と、侵略大国R国とけなげに戦うU国大統領の公開会談。
圧倒的な軍事力のR国と交戦中のU国大統領が支援よろしくと訪れるのを、支援するだけでは割が合わないぞ、対価をよこせと迫るA国大統領。U国大統領は辛いところ。助けてお願いと言う立場なら、どんなに扱われてもぐっとこらえて屈辱に耐え、笑顔を作り、言葉を飾らなければならなかっただろうが、恐らくこの大統領の心中は少し違っていたことだろう。
相手のA国大統領は、超大国の最高権力者だが、その一方で自ら公言するように自国(自己)の利益最優先。あらゆる政治課題は取引(ディール)の対象だ、ギブ(支援供与)にはテイク(見返り)が必要だ、外交は商取引の場だ。大統領は指導者(リーダー)ではなく商売人(ディーラー)だと言う男だ。
エリートの自覚を持って一国を善導するリーダーとしての志を持つのでもなく、持とうともしていないのだから、平和や国際秩序の維持を説いてU国苦境打開への支援を訴えても通じないだろうということは想定していただろう。この相手にはディーラーの心しかない。
この相手を動かすには取引材料を用意して取引(ディール)するしかない、そんな材料として希少金属資源を前にした首脳会談だったが、意図的だったかどうか分からぬ横合いから「わたしにもいい恰好する機会を与えろ」といわんばかりに余計な口出しするA国大統領側近がいたものだから、会談ぶち壊し状態となった。
この側近の間違いは、二国大統領にはこの会談は2人のディーラーによる商取引の場であったのを、2人のリーダーによる政治会談だと錯覚したことにあったと思う。双方がこれは対等な商取引だとしていたのに、政治的立場を考えろ、取引してもらえるのをありがたく思えとほのめかしたものだから、U国大統領は、何を言うかこれは対等な取引なのだとカチンと来たと同時に、リーダーだと一瞬呼び覚まされ、ここは商人のお世辞笑いでは済まされないと気色ばんだのがあの怒鳴り合いだったのだろう。
結果会談決裂、取引不成功で、この後の流れは分からないが双方後悔は残ったことだろう。こんなことがあったからと言ってA国大統領にリーダーの心が働くことは永久にないだろうが、U国大統領の方にはエリート魂を持ったリーダーの心が揺さぶられ、リーダーとはどうあるべきかという思いが強くなりそうに感じられる。
だがA国大統領も、侵略国大統領もU国を権益獲得、領土獲得のマーケットとしか見ておらず、U国を材料に取引するだろうから、世界のどの国も、何か問題を抱えると自分の力で解決しない限りAやR、もしかしたらCの取引材料にされるだろう。
強国のボス達はいつでもディーラーとなる用意は出来ているが、リーダーとして振る舞ってはくれないことを、肝に銘じておく必要があるようだ。
(カナダ友好協会代表)
