2026年06月13日(土)

コラム・エッセイ

第二話 被災した神戸の街

福祉のチカラ ~幸せのありかた~

 阪神淡路大震災が起き、当時大学3年生だった私がボランティア(志願)で向かった神戸。前年に手話奉仕員の試験に合格していた私は、全日本ろうあ連盟からのある呼びかけに応じた山口県の一団に加えていただきました。山口県からは5日間をワンクールとして交代で兵庫県神戸市の「神戸ろうあハウス」へ派遣することになっており、私は第2陣で神戸に入りました。

 発災から2週間後の神戸の街はまだ、平常を取り戻しておらず、サイレンがあちらこちらで鳴り響いていました。我々の活動は地元のろうあ者と一緒にチームを作り、小学校等の避難所を回り、聴覚障害者を探し、現在の困りごと相談に応じる業務でした。ところが、聴覚障害者のリストを渡してもらえません。「ええ!なぜ!」。個人情報だからと言われればそうですが、リストがなければ一か所一か所の避難所を訪ねまわるしか方法はなくなる。一刻を争う状況下では非効率すぎます。今思えば、当時は日本にこんな大災害が起きるとは想定しておらず、聴覚障害者の災害支援準備が全く整っていなかったと言わざるを得ません。

 訪問先の避難所ではなかなかろうあ者と会うことができませんでした。それもそのはず。被災直後の避難所は混乱が続き、耳が聞こえず言葉が発せられないろうあ者にとっては、簡単に情報を得られる場所ではないのです。しかも当時はいまほどプライバシーの確保が認識されていない。そんな不安な場所にいられるはずはなかったのです。

 このまま活動を終えるのかと思っていたところ、近くのアパートにろうあの夫婦が住んでおられるのではとの情報を得ました。我々はすぐにそのアパートに向かいました。アパートは震災の影響でまだ電気も通っておらず、破損しているところもかなりある状態でした。

 その二階の奥の部屋にろうあの夫婦がおられるとのこと。停電で呼び鈴もならない、ノックの音も聞こえない。窓の外から懸命に手を振りました。いないかなと思ったとき、ドアが少し空きました。男性の方が出てこられて暗い顔をしています。

 「神戸ろうあハウスから来ました。」と手話表現をするとパッと表情が変わり、挨拶もしないまま部屋に誘導?押しこまれるように入りました。そこにはもう一人ろうあの奥様がおられ、この瞬間から手話が溢れんばかり出てきました。

社会福祉士 公認心理師 服部たかひろ

挿し絵:杉川茂

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