2026年10月10日(土)

コラム・エッセイ

No.3 お魚バージョン

ねえ、ちょっと聞いてよ! 予備校講師 長谷純子

 こんにちは。前回まで山口の言葉について書いてきましたが、今回と次回は山口の「魚」、おいしい山口についてです。

 先日、いつも買い物に行っているスーパーの鮮魚コーナーで鱧(ハモ)の湯引きと生鱧が並んでいるのを見付けました。正直、鱧が売られているという事実に「おおっ」と驚きました。鱧が鮮魚コーナーで売られているなんて子どもの頃(40年くらい前?)にはなかったので、鮮魚コーナーでのご対面は生まれて初めてです。

 もっとも、ご対面だけで買わなかったのですが。昔はスーパーで売られていなかっただけあって、私がこの鱧を知ったのも、食べたのも関西に進学した後のことでした。関西では「鱧といえば祇園さん(祇園祭)」だそうです。関西在住の友達に言わせると。正直、なんで? 大阪の天神さん(天神祭り)ででもいいやん、と思いますが、確かに、私が鱧を生まれて初めて食べたのも京都の祇園祭の時でした。

 20歳の時に祇園祭に出かけたついでに夕飯を食べて帰ろうと入ったお店で供されたのです。小娘だった遥かかなた昔のことなので、魚が梅肉と共に出されるもの珍しさに、おっかなびっくり食べた記憶しか残っていません。なぜ鱧は梅肉なんでしょうかね?

 毎週出張先の鹿児島県で食べるきびなごが酢味噌と一緒に出されるのと同じくらいに私には謎です。醤油にワサビでもいい気がするのですが。数年後に、山口県は全国の鱧の水揚げ量の上位にあり、当時はその大半を関西に出荷していることを知りました。私が食べた鱧も山口県のものだったのかもしれません。山口に帰ってから衝撃を受けた鱧の食べ方に「松茸と鱧の土瓶蒸し」があります。鱧と松茸の時季が重なるわずかな期間でしか食べられない、貴重で贅沢な料理です。……書いていたら食べたくなりました。

 山口は本当にお魚がおいしく、魚料理が好きな私にはパラダイスです。この山口のお魚天国を思い知らされた一件があります。生粋の大阪人の友達に誘われ、大阪の天神橋筋商店街にある、バブル景気真っ盛りだった頃には珍しかった、お値段手頃な回らないお寿司屋に行ったときのことです。カウンター席に着いて彼女の第一声が「ここのお寿司むっちゃおいしいねん、魚が臭うないねんで!」という自慢気な言葉でした。この言葉、衝撃的ですよね? ね?

 私は自分が驚いたことに気づかれないよう表情を取り繕うのに苦労しました。まさか大阪では「臭くない魚=おいしい」という認識だったとは! 魚が臭くないのは美味しい美味しくない以前の、当たり前のことじゃないの? 臭くないのは大前提で、美味しさは脂がのっているとかなんかの別の要素で決まるんじゃないの?

 無表情を心がけつつも頭の中では疑問がぐるんぐるんします。世の中よく、自分の常識は他人の非常識、と言いますが、山口の常識は他県の常識ではなかったんですね。山口は美味しい! を実感した出来事でした。

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