2026年10月10日(土)

コラム・エッセイ

No.33 育てるものではなく育つもの

ねえ、ちょっと聞いてよ! 予備校講師 長谷純子

 あけましておめでとうございます。今年も一年、読んで楽しんでいただけるものを頑張って書こうと思います、と謳(うた)っておきましょう。1年の計は元旦にあり、ですから。

 去年は大晦日に人生初の体験をしました。みなさんは除夜の鐘にどのようなイメージをお持ちですか? 私にとって除夜の鐘は国営放送で放映される「ゆく年くる年」で聞くものでした。静かで厳かな映像を背景に各地のお寺さんから響いてくる様々な音色の鐘の音に耳を傾け、過ぎ去った1年を思う。そんなイメージです。というか、それしか知りませんでした。

 ところが、定期的にある飲み会に不定期参加される徳山の徳応寺の坊守さんに「うちに撞きに来る?」と誘われまして。大晦日の23時45分に徳応寺にお伺いして記帳後、人生で初めて除夜の鐘を撞いてきました。すごいですね。テレビで聞く音と全く違う体験です。音って空気の振動で伝わるんだ! と体感しました。鐘の震えと空気の振動を肌で感じながら鐘の厳かな音を聞くのです。聞く、というより音が体の中に浸み入ってくるという表現のほうが正しいかもしれません。もう、感動しかありませんでした。

 で、年が明ければ八幡様に初詣です。1日にはニューイヤー駅伝を見るのが私のお正月の恒例なので、午後から遠石八幡宮に参拝に行ってきました。

 と、日本人は年末年始は当然のようにお寺さんと神様、仏教と神道を違和感なく共存させているんですよね。宗教に関してとても寛容な国民です。この寛容さは個人的には争いごとを減らす一つの要因かなと思っています。

 この「仏教と神道の共存」つまり「神仏習合」の発祥の地である大分県宇佐八幡宮に去年の11月30日に日帰りで行ってきました。というのも、この日限定で「ご鎮座1300年奉祝 天台宗・真言宗神仏習合発祥の地 世界平安の祈り」という、神道と仏教の合同法要が行われたからです。この行事はその昔、天台宗の最澄と真言宗の空海(弘法大師)が一緒に中国の唐へ渡る前に宇佐神宮で旅の無事を祈願したご縁が元で、今回のようにこの三つが揃うのは最初で最後なんだそうです。これはぜひとも直接見なければ! ということで参じたわけです。

 法要前の参道では神職を先頭に各宗派のお坊さんも神社本殿に向かって列をなして歩く姿を拝見しました。天台宗と真言宗は密教なので、法螺貝も吹奏されました。仏教の法螺貝の音を聞きながら神職が歩く姿を見るのは文字通り「有難い(めったにない)」眺めです。また、神社本殿で祝詞が奏上されるのは当たり前ですが、この法要では読経もされます。宗教、宗派という垣根を越えて平和のために一緒に祈る。この姿勢、情景、状況そのそのものが平和に必要なものよね、日本って素敵と法要の最中、私はひたすら感動しまくっていました。

 私は日本が大好きなのですが、この気持ちは「愛国心」といえるかと。過去に愛国心を教育で養うと聞いた際、何か違うなあと思ったのですが、当時はこの違和感をうまく表現できませんでした。ですが、今回、ようやく分かりました。愛国心って「育てる」ものではなく、勝手に「育つ」ものなんですよ。私の日本愛は私が日本的なことをいろいろ体験するうちに勝手に育った気持ちです。誰かが意図的に育てたものではありません。だから、愛国心を「育てる」と言われるとどこか気持ち悪さを感じたのかと。鐘を撞いて煩悩を消したおかげなのか、やっと言語化できて、お正月からすっきりしたのでした。

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