コラム・エッセイ
No.36 Crazy for you
ねえ、ちょっと聞いてよ! 予備校講師 長谷純子今回はどう冒頭のご挨拶を書いたらよいのか、ちょっと思いつかなかったので、単刀直入に書きます。過去に誰かに告白したことはありますか? そのときどのような言葉で告白しましたか? ちなみに、私は好きになったら黙っていられないタイプで、脳と口が直結しているため、基本的に技巧を凝らすことなく「好き」の一択です。
このようなネタが出てきた理由は1月末まで遡ります。共通テストも終わり、国公立大学の二次試験向けの講義をしていた時、語彙力が話題になりました。生徒の語彙力は近年特に落ちているのを実感します。本を読まないのが最大の理由です。本を読まないから未知の単語に出合う可能性が低く、語彙力がつかないし、言葉のバリエーションも少ないんですね。
で、授業中に国公立狙いの生徒の語彙力はどの程度なのかと思い、試しに「告白の言葉としてどんなものが思い浮かぶ?」と訊いてみたのです。返ってきた答えは「好き」と「愛してる」だけでした。口頭でするにしろ文面にするにしろ、この二つしか思い浮かばない、と。
で、皆さんはこの二つ以外にどのような言葉が思い浮かびますか? 私はまず「惚れた」が出てきます。このバリエーションで「ホの字(惚れたの最初の文字だけを利用した言葉)」でも可です。個人的には昔の映画で、「トラック野郎」シリーズに出ていた菅原文太さんに、ちょっと照れの入った口調で言ってほしい言葉です。
他には明治時代の文豪である夏目漱石が英語教師をしていた際、「I love you」を、日本人は「愛してる」なんて言わないから「月が綺麗ですね、とでも訳しておけ」と言ったという有名なエピソードをご存じの方なら「月が綺麗ですね」もあるかもしれません。この訳は共通テストの前身であるセンター試験現代文の評論にも出てきました。が、この訳にまつわるエピソードは文献では確認できず、真偽不明のようです。ちなみに、もし私が「月が綺麗ですね」と告白されても、なんのこっちゃと流すと思います。「月が綺麗ですね」が告白の言葉と咄嗟には認識できないでしょうから。
他にも私の印象に残っている告白言葉として「crazy for you」があります。「君に夢中」とか「君に首ったけ」と訳される言葉です。この言葉にはちょっとした思い出がありまして。大学時代にわりとよく一緒に飲んでいた男友達から私の後輩に告白するのに「『crazy for you』は恰好よくないですか? 印象に残るでしょ」と相談されたのです。
言葉自体はその当時も知っていたのですが、日本人でこの言葉を使って実際に告白しようとする人がいたことに衝撃を受けました。しかも、それが自分の友達!「I love you」と言われる以上にインパクトのある言葉です。バブル時代のあるある話、かもしれません。もっとも、当時の私は「頼むから普通に告白したって(してあげて)」と即座に却下したのですが。あ、告白は成功していましたよ。
このように告白の言葉でも様々なバリエーションがあるのですが、今どきの生徒からは出てこないのです。今年度の受験生、ガンバレ!
ところで。今、私の目の前には「はるみ」「せとか」「不知火」「ぽんかん」「マンダリン」という商品名(品種名)の付いた周防大島産の柑橘(個人的には総じてミカン)があります。「はるみ」以外はスーパーで購入したものです。前回のこの欄で「次のシーズンには周防大島に行って大島みかんや大島ポンカンを箱買いしてやる」と書いたのですが、「はるみ」は来年まで待てずに、衝動的に周防大島まで車を走らせて買ってきたものです。産地で買ったものは一つ一つがかなり大ぶりで、食べ応えがあります。今あるものがなくなったらまた大島まで走る予定です。
つまり、今の私は「大島産」のミカンに「crazy for you」なのでした。
