2026年06月06日(土)

コラム・エッセイ

No.38 世代間格差で日本語が伝わらない(泣)

ねえ、ちょっと聞いてよ! 予備校講師 長谷純子

 こんにちは。5月は今の若い子とのゼネレーションギャップ(世代間格差)に驚かされることが多々ありました。

 みなさんは「貧乏暇なし」という言葉をご存じですか? 貧しい人は生活のために常に忙しく働く必要があるため暇がない、という意味の慣用表現ですね。この対極の概念が、莫大な財産があるため働く必要がなく、自由な時間のある特権的な階層を意味する「有閑階級」です。私と同世代の方なら、漫画雑誌「りぼん」で一条ゆかり先生が描かれた「有閑倶楽部」でこの言葉を知った人は多いかと思います。

 現代文の文章でこの言葉が出てきたので、説明するのに今の子はこの漫画を知らないだろうから、まずは対極の概念からと、「『貧乏暇なし』って言葉があるでしょう?」と話し始めたのです。そうすると、生徒が一斉に不思議そうな(顔面に?マークを張り付かせた)表情を浮かべたのです。「ええーっ? もしかして貧乏暇なしって通じないの? うっそーっ! 死語?」と叫んでしまいました。他クラスや他校舎で訊いてもほぼ同じ反応です。私たちの世代では知らない人のほうが少ない言葉だと認識しているのですが、なぜ今の子は知らない? うちなんて母が口癖のように言っていたのに。

 他にもまだあります。「つっかけ」という言葉はご存じですか? サンダルみたいにストラップがあるわけではなく、また、おしゃれ度も低く、普段着でちょっと近くのコンビニに行くような際に足にまさしく「つっかける」履物、と言えば伝わるでしょうか。

 踵はスリッパほど平坦ではなく、かといって(一時期は)「ミュール」と称するほどの高さもない、本当に日常の履物をイメージしてほしいのです。この「つっかけ」が死語なんですね。もっとも「ミュール」も若者の中では死語の一つですが。

 生徒に「つっかけ」の代わりの言葉は? と尋ねても「知らない」と。「つっかけ」というものがなくなったわけではありません。今現在、うちの玄関にあるのですから。うーん、どうやって伝えよう……。

 20年くらい前に、頭からすぽんと被る、締め付けのない木綿のワンピース「アッパッパ」が伝わらないのは実感したのですが、よもや「つっかけ」まで伝わらないとは本当に驚きでした。

 ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、5月25日付の日本経済新聞の第一面に日本の「人口、大正時代に逆戻り」というセンセーショナルな見出しが出ていました。都道府県によって差はあれど、総じて日本の人口が減少していることを報道する記事です。ちなみに、大正時代レベルの人口になっている県は秋田・山形・島根・徳島・高知県です。山口県は1940年の戦前レベルだそうです。山口県は18歳人口の流出が大きいため人口が減少しているし、最大の流出先は福岡県です。そこで生徒にこのことを話した際「福岡県がバキュームカーで山口の人口を吸い出しているから」という表現したのですが、「バキュームカー」が伝わりませんでした。下水道の普及が原因ですね。仕方なくその場は「掃除機で吸い出している」と言い換えたのですが、規模の大きさが伝わりにくい。ああ、言葉って難しい。

 他にも、20年くらい前に森鴎外の『山椒大夫』を説明するのに『安寿と厨子王』を出したら、誰も知らなかったし、今回は問題文中のロビンソン・クルーソーのお話を誰一人、もう、本当に誰一人知らない。ついでにガリバー旅行記も知らない。どれも子どものころに読む定番のお話だったと記憶しているのですが。

 とっても愚痴愚痴しくなってしまいましたが、今回、このことについて生徒の前で嘆いていた際に、一人の男子生徒が呟いた「難しい言葉を使ってしゃべっている人見たら恰好いいと思う! 沢山言葉を覚えて自分もそうなりたい」という言葉にとっても救われた思いがしたのでした。彼のような子がいる限り日本語の未来は明るい!

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