2026年05月01日(金)

コラム・エッセイ

長月(一)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 暦は9月へ。暑くて時折、大雨に見舞われた8月も、23日の「処暑」を過ぎた頃から幾分涼しくなりました。日が落ちると虫の音が聞こえてきます。いよいよ学校の二学期が始まり、家庭にもふだんの生活が戻りました。

 賑わった浜辺も静かです。「今はもう秋 誰もいない海 知らん顔して 人がゆきすぎても…」。トワ・エ・モワの歌声が流れます。白鳥英美子と芥川澄夫のさわやかなフォークデュオの活躍は私たちの青春時代と重なります。『誰もいない海』や『或る日突然』など若き日の出会いや別れを思い起こします。

 夏の終わりから秋の初めにかけては何故か一人旅に出たくなります。学生時代には、奈良から和歌山に流れる紀の川沿いの粉河寺や根来寺、福井の永平寺や東尋坊、金沢の兼六園や犀川、卯辰山、40歳代には軽井沢から信濃追分へ。堀辰雄の作品に触発されて信濃追分の白樺林を抜けて堀辰雄記念館を訪問。8月の終わりに記念館の庭にはもう萩の花が咲いていました。ある夏は高知の四万十川を散策した後、窪川から愛媛の宇和島までの予土線の旅を満喫。四万十川上流に沿って走る山峡の風景が印象深いです。

 遠くに出かけなくても近場でも充分楽しめます。電車に飛び乗ってあてのない旅へ。缶ビールを片手に車窓に目をやれば瀬戸内の海が広がります。徳山から岩国までの山陽線は、ほぼ海岸線を縫うように走ります。大畠で下車。ホームからは大畠瀬戸の潮流が見渡せます。季節によっては鯛釣りの小船が幾艘も。柳井港と松山・三津浜港を結ぶ防予汽船のフェリーも行き交います。潮風に吹かれながら頬張るおにぎりも最高です。

 徳山と岩国をつなぐ岩徳線。高森はかつて山陽道の宿場町で賑わいました。農林業が盛ん、松茸の産地としても有名で子どもの頃は松茸狩りを楽しんだ記憶があります。岩国市川西出身の宇野千代は2歳で母と死別、高森の伯父に育てられてこの地に愛着を持ちました。今年は宇野千代の生誕125年。玖珂町から高森町へかけての玖西盆地を島田川が貫きます。高水駅、米川駅、高森駅辺りが徳山と岩国の中間点。乗降客も高森駅を起点に徳山と岩国へ。客の流れが変わります。

 旅は日常を忘れさせてくれます。コロナ禍は人の生き方を問いかけます。自分と向き合う旅。8日は草の葉が夜露を結ぶ「白露」。10日は中秋の名月。秋の色が日に日に増していきます。季節が人を旅にいざないます。

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