2026年05月01日(金)

コラム・エッセイ

長月(三)

随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)

 「暑さ寒さも彼岸まで」。先人の言葉は季節を上手くとらえています。彼岸を過ぎるといよいよ秋本番です。野には秋の草花が風にそよぎます。

  秋の野に咲きたる花を指折りて

       かき数ふれば七種(ななくさ)の花

  萩の花尾花(をばな)葛花(くずはな)なでしこの花

     女郎花(をみなへし)また藤袴(ふぢばかま)朝がほの花

 万葉集で山上憶良が詠んだ秋の野の花二首。口ずさめる人も多いでしょう。この頃、八代から中須、須々万、須金へと車を走らせると秋の美しさを実感します。稲の収穫は最盛期。刈り取り前の稲穂が頭を垂れて秋の日に映えます。

 高水の登山口から烏帽子岳へ登って八代方面へ下ると八代盆地が目の前に広がります。雲一つない青空を背景に尾花を眺めていると時を忘れます。中須の棚田も田植え前の水を張った頃、稲が実った頃などは一幅の絵を見るようです。須金から金峰、鹿野へと抜ける道も山里の美しさを満喫させてくれます。これからの季節、須金の峰畑からは雲海も見渡せます。

 10月の声を聞くと小学校の運動会を思い起こします。最近は9月、学校によっては5月に行われていますが、私が小学生だった昭和30年代は10月でした。稲刈りの時期とも重なっていて、農家の庭先の柿の木はたわわに実をつけていました。山道を行けば栗の実がはじけます。徒競走や玉入れ、綱引きなどに汗をかいて、お昼に家族で囲む弁当が楽しみでした。卵焼き、豆や煮しめ、柿や栗などがぎっしりと重箱に詰まっていたように記憶しています。ふだんはご飯に焼き魚、味噌汁程度の食事なので超豪華版でした。

 学校からの帰り道、瀬戸内の海を眺めながら坂道を下るといつも柿の木が目に飛び込んできました。わが家の裏庭にも私が生まれた時にはすでに一本の柿の木がありました。悪戯をしてはその木に縛られたものです。今もなお見守ってくれています。

 日本の秋を象徴する木は何でしょうか。楢(なら)や櫟(くぬぎ)、楓(かえで)など紅葉する広葉樹もそうでしょうが、やはり身近な暮らしの中にある柿が代表格ではないかと感じます。1982年11月に徳山市文化会館(現在の周南市文化会館)が開館した折、国道脇の正面に植えられた一本の木は柿でした。この11月で40周年。今や名実ともに日本を代表するホールに成長し、来場者は悠に1千万人を超えました。一本の柿の木も風雨に堪えてお客様を温かく迎え入れてくれていたのです。秋の夜長にしみじみと思います。

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