コラム・エッセイ
霜月(一)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)秋も深まり、山里から紅葉の便りが届きます。岐阜の栗きんとんをいただきました。細やかな優しい味がお抹茶を引き立てます。栗とともに新蕎麦の季節です。
山の上の月に咲きけりそばの花
貧窮の生涯を送った高崎の俳人、村上鬼城の句。慶応元年に生まれ、正岡子規と同時代の人。自然を鋭い感覚で捉えます。痩せた土地で蕎麦は育ちます。小林一茶と比較される鬼城も蕎麦に心を寄せたのでしょう。蕎麦の話題は尽きません。
私も蕎麦が好きです。盛り蕎麦で一献傾けるのも乙なものです。ピアニストのブーニンが楽屋で注文したのも蕎麦でした。1985年第11回ショパン国際ピアノコンクールで優勝。衝撃的なデビューをした、あのスタニスラフ・ブーニン。6年後の平成3年12月11日に山口県内で初開催しました。チケットは1か月を待たずに完売、満席の聴衆を魅了しました。出前で取り寄せた蕎麦をすする笑顔を思い起こします。
今月2日に40周年を迎えた周南市文化会館は数々の名演を届けてきました。シルバーチェリーという木材をふんだんに使った大ホールは「楽器そのもので素晴らしい音がした」(開館翌日にNHK交響楽団を指揮した岩城宏之)。「世界のオザワ」も昭和60年3月12日に大阪フィルハーモニー交響楽団を率いて来演。武満徹の「弦楽のためのレクイエム」を小澤征爾の指揮で聴けるとは思いませんでした。「ピアニッシモがこんなにも美しい」と絶賛しました。
周南団地在住の音楽ファン、深沢義明さんは「徳山市史上、永遠に特筆大書すべき音楽会」と寄稿。彼はその2年後惜しくも旅立ちました。
舞踊家も相次いで舞台に登場。世界最高のプリマ、シルヴィ・ギエム。平成9年11月16日に東京バレエ団を従えてモーリス・ベジャール振付の「ボレロ」を披露。パリ・オペラ座バレエ団エトワールも務めた彼女の代表作。静から動へ、ラベル作曲のボレロのリズムに乗って最高潮に。終演後の拍手喝采は20分も鳴りやみませんでした。昭和60年11月17日のイ・ムジチ合奏団がアンコールを4曲、30分にわたり演奏してくれて以来の熱狂ぶりでした。ロシアバレエの至宝、マイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」は息を飲むほどの美しさ。平成9年7月22日の舞台も忘れられません。
劇場は生きる喜びを与えます。13日は山口県舞踊家の日本舞踊公演。人生を賭けた舞台に声援を送ります。
