コラム・エッセイ
如月(二)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)風花。かざはな。何と美しい言葉でしょう。青空にひらひらと雪が舞ってくることがあります。そんな雪片を花に見立てた表現は優雅です。
遠き日の便りのやうに風花す
大谷あつ子
14日の読売俳壇に掲載された仙台市に住む女性の一句。遠くで降っている雪が風に流されて舞ってくる光景を「遠き日の便り」と捉えて作品が生きました。選者の正木ゆう子さんは句評で次のように紹介しています。「雪は天から送られた手紙」と言った中谷宇吉郎は寅彦の物理学の弟子。上五は様々に言い換えがきくが、時間の経過を含ませた点がいい。
寅彦とは寺田寅彦で名随筆家としても知られます。高校生の頃は理数系も興味があって、中谷宇吉郎の雪の結晶の研究成果をまとめた「雪」や吉田洋一の数の面白さを解いた「零の発見」などの本もよく読んでいました。中谷宇吉郎の名前に懐かしさを覚えます。
風花の季語は冬ですがこの時季にも雪はひらひらと舞い降ります。ふわふわと大きな雪片は牡丹雪になることが多いです。すぐ溶けるところから淡雪とも言います。こちらは春の雪。季語はもちろん春。3月ともなると名残の雪、忘れ雪、別れ雪。日本語の豊かさを感じます。
春雪や降るにもあらず降らぬにも
千代女
千代女は江戸中期の俳人で加賀千代とも称しました。加賀国松任の表具屋の娘。「朝顔に釣瓶とられてもらひ水」はあまりにも有名です。ちなみに朝顔は秋の季語。春雪や、の句は淡い雪の情景を上手に表しています。
春の足音が聞こえてくるのもこの頃です。花の色は梅の白からミモザや連翹の黄へと移ります。浅い春は黄色に彩られます。テレビのスタジオも先日、TBSはミモザを、NHKは木蓮を基調とした花をあしらっていました。ファッションと同じで花もまた季節を先取ります。
「春は名のみの 風の寒さや 谷の鶯 歌は思えど…」。この季節にふさわしいのが「早春賦」。思わず口ずさみます。作詞は大分県臼杵市生まれの吉丸一昌。文部省唱歌に飽き足らず明治末から大正初めにかけて10集の「新作唱歌」を刊行。「早春賦」は大正2年(1913)の第3集に発表されました。作曲に若手を起用、東京音楽学校在学中の中田章が担当しました。「夏の思い出」や「雪の降るまちを」などを作曲した、あの中田喜直の父にあたります。季節を待ち焦がれる気持ちが詩や歌を生み出します。
