コラム・エッセイ
卯月(二)
随想 季節の中で 西﨑博史(周南文化協会会長)黒澤明監督の不朽の名作『生きる』がイギリスを舞台によみがえりました。ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが脚本を手掛け、70年の時を経てスクリーンに感動作を登場させました。3月31日公開、4月3日にムービックス周南で見ました。
志村喬主演の『生きる』は1952年(昭和27)に上演。カズオ・イシグロ脚本の『生きるLIVING』は1950年代のロンドンが舞台です。主演はイギリスの実力派ビル・ナイ。病に冒されて人生が長くないと悟った役所勤めの主人公が市民のため公園作りに奔走します。志村喬が公園のぶらんこに乗って歌う「ゴンドラの唄」が印象的で、今度の作品も筋書きは踏襲しつつスコットランドの歌をテーマ曲のように流して観客の胸に迫ります。深い絶望から立ち上がり、久しく忘れていた生きる情熱を取り戻す姿に感銘を覚えます。
ジャズ漫画を映画化、一流の音楽家をめざす物語『BLUE GIANT』は2月17日公開。ニューヨークを中心に世界で活躍中のピアニスト上原ひろみが音楽を担当していて、物語を盛り上げる音楽が心に届きます。とくに後半は思わず涙ぐみました。
映画は一枚の大きなスクリーンとの対話。2時間から3時間、日常のすべてを忘れて銀幕と向き合います。仕事をはじめ、地域でのさまざまな活動は楽しいばかりではありません。人間が絡んで組織になると難しいことが出てきます。辛いことも多いでしょう。そんな日々に生きる喜びや生きる力を与えてくれるのが素敵な作品の数々です。
映画の思い出は尽きません。私たちが子どもの頃、小さな町にも映画館はありました。小学生の時、学校引率で見た大きなスクリーンにビックリ。両親も時代劇が好きでした。光には銀映、中央映劇など4つの映画館があって徳山にはテアトル、国際、文劇など光の倍くらいあったように記憶しています。息苦しい青春時代を送っていた高校2年の時に見た『若者たち』は私にとって記念碑的作品。貧しい中、兄弟が喧嘩しながらも助け合って懸命に生きる姿に力が湧きました。広島の本通り裏手にあった「シネツイン」、東京・神田神保町の「岩波ホール」も名画を上映する懐かしい映画館でした。
半世紀岩波ホールを支えたる
座席の一人でありしよわれも
松戸市 遠山絢子
昨年7月閉館した岩波ホールを惜しむ声は相次ぎました。9月4日の朝日歌壇の一首。どの町の映画館にも惜別の思いはあふれます。
